ユング心理学の視点から見た日記。スーパー戦隊シリーズ キョウリュウジャー、トッキュウジャー、東のエデンのレビューと感想。エニアグラム、子どもが育つ魔法の言葉、話が通じない人の心理、自分に気づく心理学。ドラマやアニメから学ぶ人生観。
 
ミヒャエル・エンデ作

モモ
時間どろぼうと、ぬすまれた時間を人間にとりかえしてくれた女の子のふしぎな物語


そのレビューと感想



第4回「ベッポと時間差のカラクリ」



(第4章「無口なおじいさんとおしゃべりな若もの」より、その前編)


たくさんの友だちができた、モモ。

そして、多くの人がそうであるように、友だちの中に、特別な人がいました。

モモの場合は、ふたり。

ひとりは若もので、ひとりは年よりです。


おじいさんの方は、道路掃除夫の“ベッポ”といった。

彼は円形劇場近くの、ブリキ小屋に住んでいる。

小柄な上に背中をまるめているので、背丈はモモと同じくらいに見えます。

白髪に、小さなメガネをかけている。


ベッポは町の人に、ちょっとヘンなんじゃないかと思われていました。

というのも、何を聞かれても、ニコニコ笑うばかりで返事をしないから。

でも、それには、ちゃんと理由がありました。

ベッポは、質問されたことについて、じっくり考えるのです。

そして、それが答えるまでもないものだと思うと、だまっている。

答えるべき質問の場合は、どう答えるか、じっくり考えます。

時間をかけて、たいてい二時間は、そして時には まる一日考えてから、返事をする。

なので返事された方は、「?」となります。

ずっと前に質問したことなんて、おぼえてないから。

だから、急にベッポが、おかしなことを言いだしたと思ってしまう。


ただ、モモは、違います。

モモは、聴く名人。いつまでも、待つ人。

ベッポが何か言うまで、いつまででも待てた。

だから、ヘンなことを言うとは思わないし、言うこともちゃんと理解できました。

さらに、モモは知っていた。

ベッポが返事に時間をかけるのは、間違いを言うまいと思っているからだと。

彼は、こう考えていました。


世の中の不幸というものはすべて、みんながやたらとうそをつくから生まれている、それもわざとついたうそばかりではない、せっかちすぎたり、正しくものを見きわめずにうっかり口にしたりするうそのせいなのだ、

(P47)




ベッポは毎日、夜が明けないうちに、キーキー鳴る自転車で、仕事に出かけた。

仲間と共に、ほうきと手押し車をもらい、どこの道路を掃除するか、指示を受けます。

ベッポは、町がまだ眠っている、夜明け前のこの時間が、好きでした。

それに、自分の仕事を、気に入っていた。

だから、仕事はていねいにやりました。

とても大事な仕事だと、自覚していたのです。


じっくり考えるベッポは、道路掃除もまた、ゆっくりと時間をかけて、着実にやりました。

ひとあし進んでは、ひと息。ひとあし進んでは、ひと息。

時々は、ちょっと足を止め、前の方をぼんやり見ながら、物思いにふけります。

それからまた、はじめる。

その積み重ね。


そうしていると、ベッポの頭に、意味深い考えが浮かぶことが、よくありました。

でも、それは、言葉にはあらわしにくいもの。

ほのかによみがえってくる、何かのにおいとか、夢でみた色とか、そんな風に、なかなか人に説明できないようなもの。

仕事がすんでモモの隣に腰かけている時、ベッポはよく、そんなものについて話しました。

すると、舌はほぐれ、それにピッタリの言葉が出てくる。

モモは、そんな聞き手でも、あったのです。


ある日、ベッポは、自分の仕事について、モモに話したことがあります。


とても長い道路を受け持つと、これでは とてもやりきれないと思ってしまう。

だから、せかせかと、スピードを上げてやろうとする。

時々目を上げると、まだまだ残っている。ちっとも、減ってない。

だから、もっとすごい勢いで、働こうとする。

心配でたまらないから。


でも、そうすると、しまいには息が切れて、動けなくなってしまう。

こういうやり方は、いけない。


一度に全部のことを考えては、いかん。

次の一歩のことだけ、次のひと呼吸(ひといき)のことだけ、考える。

いつもただ、次のことだけを考える。


すると、楽しくなってくる。

これが、大事なんだ。

楽しければ、仕事はうまく はかどる。

こういう風にやらにゃあ、だめなんだ。


ひょっと気づいた時には、一歩一歩進んできた道路が、全部終わっている。

どうやってやり遂げたかは、自分でも分からない。

これが、大事なんだ。


ベッポはそんなことを、モモを相手に考え込みながら、時には長い休みを取りながら、話しました。



別の日には、こんなこともあった。


ベッポは、じっと考え込んだあと、「むかしのわしらに会ったよ」と言いました。

そしてまた、長いこと、だまり込んだ。

そのあと出てきたのは、何かのたとえのようなもの。

「よくあることだが――暑さの中でなにもかも眠り込んでいるような、まっぴるまのことだ――世界がすきとおって見えてくる――川みたいにだ、いいかね? ――底まで見えるんだ」

「その底のほうに、ほかの時代がしずんでいる、ずっと底のほうに」


それは、実際のことについて、話したことでした。

ベッポは、昔の市の外壁のところの、道路を掃除していた。

そこの壁には、ほかと色の違う、五つの石がはめこんでありました。

ベッポには、その石が分かったのだという。


そういう別の時代が、あった。

あそこで、おおぜいの人が働いていた。

その中に、ふたりの人間もいた。

そのふたりが、あの石をはめ込んだんだ。

あれがその印。


ベッポは長い時間をかけ、休み休みしながら、話しました。

言いたいことを言葉にするのに、たいへん苦労している。


そのふたりは、今とは違う姿だった。

あの頃のふたりは、ぜんぜん、違っていた。


やがてベッポは、怒ったような口調で言いました。

「だがわしには、わしらだとわかった――おまえとわしだ。わしにはわかったんだ!」



町のみんなは、ベッポじいさんのことを笑ったりした。

ヘンな人だと言う者もあった。

でも、モモは、ベッポが大好きでした。

そして彼の言ったことは全部、心の中に、大事にしまっておきました…





モモ―時間どろぼうとぬすまれた時間を人間にかえしてくれた女の子のふしぎな物語 (岩波少年少女の本 37)






<感想>


ベッポじいさんは、町の人から、ヘンだと思われていました。

どうも、そこには「時間差のカラクリ」が、あったようです。


ベッポじいさんは、じっくり考える。

なので、質問にはすぐ答えません。

答えるのは、質問した人が忘れた頃。

質問した時には黙っていて、ずいぶん経ってから急に、答えます。

ということは、「聞いた時には答えずに、聞いてない時に答える」ことになる。

町の人にとって、質問と答えは、つながっていません。時間が経過しているから。

でも、ベッポにとって、質問と答えは――密接に――つながっています。


どうも、町の人とベッポじいさんでは、時間の流れが違うのかもしれない。

でもね、おかげで、ベッポじいさんは、みんなが見ないものを、見ることができるようです。

遅いけど、ゆっくりやるけど、おかげで見える風景もある。

この物語の、この章にも、いくつか金言(きんげん)が出てますでしょ?



ベッポじいさんは、言いました。

「世の中の不幸というものはすべて、みんながやたらとうそをつくから生まれている、それもわざとついたうそばかりでない、せっかちすぎたり、正しくものを見きわめずにうっかり口にしたりするうそのせいなのだ」


ウソは、わざと騙す(だます)ものだけではないようです。

せっかちすぎて、結果、ウソになる場合も。

正しくものを見極めないために、結果、ウソになる場合も。

そんな、「思ってもみなかったけど結果ウソになった」ことは、世の中にはたくさんあるのかもしれません。


そして、それがいつもだと、人はウンザリする。

落ち込み、傷つき、信用できなくなります。


そんな大事なことを知っているから、ベッポじいさんは、丁寧に、時間をかけて、考える。

みんなと同じように、不幸はできるだけ、避けたいから…





心理的時間―その広くて深いなぞ



変人偏屈列伝 (愛蔵版コミックス)





コンプレックスも、時間差のカラクリ。

人は目の前のことに感情を乱されると思ってしまうけど、その核は、時間を越えた別の場所にあるケースがある。


何かを前にすると、動揺する。うまく動けない。

でもそれは、目の前のものに原因があるのではなく、目の前のものにつながる、別の時間、別の場所にあるものから、影響を受けているのかも…





 <<「(3) 遊びの中のホンモノ」
    「(5) ジジと常識」>>




関連記事
[サイト内タグ]:  ミヒャエル・エンデ「モモ」  時間



ブログランキング・にほんブログ村へ
blogram投票ボタン


ランキングに参加しています
よかったらクリックしてね


秋だから、実をためる


↑ページトップへ


■ 最近のエントリ

↑ページトップへ




// HOME //
Powered By FC2ブログ.
copyright © 2005 枕石漱流 日記(ユング心理学の視点から) all rights reserved.
■ Amazon
■ 注目記事
■ アーカイブ
■ カテゴリ

■ 月別アーカイブ

■ 検索ぷらす


【注意】 ENTERキーだとうまく表示されないようです。申し訳ございませんが、ボタンを押してください。

■ キーワードハイライト機能

検索時、検索語句がハイライトされます。

■ 最近のトラックバック
■ スポンサードリンク

■  
■ スポンサードリンク



■ 最近の記事
■ カレンダー

09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -

■ FC2カウンター



現在の閲覧者数:

■ プロフィール

南方 城太郎

Author:南方 城太郎
生息地:関西
分類:昭和人間
生まれ:
黒電話、赤電話が主流で、冷房は扇風機、暖房は石油ストーブと炬燵という時代


日記について


拍手する

プロフ
電脳露店マイアソシエイトストア
おバカ映画

■ リンク
■ RSSフィード
■ QRコード

QR

携帯でも御覧になれます。

■ にほんブログ村



BlogPeople「人間・哲学/人間考察」

■