ユング心理学の視点から見た日記。スーパー戦隊シリーズ キョウリュウジャー、トッキュウジャー、東のエデンのレビューと感想。エニアグラム、子どもが育つ魔法の言葉、話が通じない人の心理、自分に気づく心理学。ドラマやアニメから学ぶ人生観。
 
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戦国、室町幕府の衰退と共に、大名たちが領土を広げ、あるいは天下を手にするために、血で血を洗う戦いに身を投じた時代。

これは、そんな戦乱の世を見事に生き抜き、後の江戸幕府誕生にも関わりを持つことになるひとりの女性、乱世に大輪の花をくっきりと咲かせた、江(ごう)という名の女性の物語…



大河ドラマ「江~姫たちの戦国~」、第1話「湖国の姫」より――



江(ごう) 姫たちの戦国 前編 (NHK大河ドラマ・ストーリー)




お市の方(鈴木保奈美)には、3人の娘がある。

上から、茶々(宮沢りえ)、初(水川あさみ)、そして、江(上野樹里)。


妹想いで物静かな、茶々。

容姿は姉妹の中で、一番お市に近かったといいます。

そして、母に似た気性の激しさも、内に秘めている。


感情豊かな、初。

今日も饅頭のことで、江と喧嘩を。

おしとやかな姉とは対照的な、涙もろい感激屋。


そして、江は、男勝りというか、天真爛漫というか。

姉の初に口ごたえし、馬を乗り回し、行く先々でトラブルを起こす。

今日は初の饅頭をくすね、2個は食べ、残りの2個は愛馬ハヤテに。

その上、口うるさい初の口に饅頭を突っ込むと、「食べながらしゃべってはなりませぬ」などと平気で言う。

まったく、御転婆というか、豪胆というか。


妹たちの騒動を見守る茶々は、「しようのない妹たちじゃのう」と呆れます。



3姉妹の母・お市は、織田信秀の娘で、信長(豊川悦司)の妹にあたります。

時を遡って、永禄11年(1568年)。お市は、信長上洛の布石として、北近江小谷の浅井(あざい)家に嫁ぐことに。

いわゆる政略結婚です。

お市も、それは承知の上でした。

信長は「市が浅井家に嫁げば、北近江は我が織田家のものになるに等しい。京への道も開けよう。市が、浅井を取り込めばな」と言って はばかりません。

そして市自身も、「わたくしは嫁に行くのではなく、戦に臨む気構えでおりまする」と、澄ましている。

この兄にして、この妹あり。

戦国一の美女と言われたお市ですが、その中身は…



婚礼を祝う宴が催されましたが、お市に好意を抱く木下藤吉郎秀吉(岸谷五朗)は、気に入りません。

そこで酒の勢いに任せ、お市に訊ねました。

「もしも、夫となられる浅井長政さまが、性根の捻じ曲がった いや~な男だったら、どうなさるおつもりですか?」


が、お市は澄まして、「別に、どうにも」と。

「何一つ相手に期するところなどない」、そう言い放ちました。「よって、落胆することもありはせぬ」と。



家に帰り、そのことを妻のおね(大竹しのぶ)に話す秀吉。

おねは、お市さまが本当に嫁ぎたいのは信長さまなのだと言います。

兄妹だから婚姻は成立しませんが、気持ちとしてはそうなのだと。

偉大な兄に代わる人物など、そうはいない。

となると、兄に嫁いだ気持ちで、兄のために生きるのではないか。

おねは言いました。

「もう、信長さまに嫁いだ御気持ちで、御嫁に行かれるのでございましょうね」


そして秀吉は、想像する



頼んだぞと言う信長の杯を受け取り、お市は嫁ぐことに。

「兄上様のため、わたくしは残りの生涯を尽くします」


戦国の時代です。

途中まで、お市の籠に柴田勝家(大地康雄)や秀吉が帯同し、国境で、浅井家の家臣に、引き渡す形に。

「御願い申し上げる」と一方が言うと、もう一方が「確かに、御預かりいたしましてございます」と、籠を受け取る。

ここから先、同伴するのは乳母たちだけです。



その嫁ぎ先、浅井家では、先代当主の久政(寺田農)が婚姻に反対していました。

信長は浅井家を乗っ取るつもりなのだと疑っている。

しかし、婚儀を受け入れねば戦になってしまう。

渋々ながら、受け入れるしかありません。


そしてお市を娶る浅井長政(時任三郎)本人はといえば、自然体に大きく構えている。

父・久政が危険視するお市が到着すると、「鬼か蛇か、はたまた大蛇(おろち)か、この目で見てまいるといたしましょう」、そう言って、自ら出向きました。



婚礼の前に花嫁の顔を見るなどはしたないと、乳母の須磨(左時枝)は拒否します。

しかし、お市は自ら籠を出て、長政にその姿を見せました。

顔には、凛と、覚悟の色が。

怯えなど、微塵も感じさせない。


長政は、息を呑みました。

が、すぐに無礼を詫び、そして、お市の手をとり、琵琶湖へ。

と、いきたいところでしたが、お市は「ひとりで歩けまする」と、憮然として歩き出します。


山道を歩き、ふたりは湖を臨む高台へ。

「琵琶の海です。美しいでしょう」

長政がそう言っても、お市は「そうですね」と、つっけんどんな態度を崩しません。

思わず長政は笑ってしまいました。


ゆっくり歩きながら、長政は話します。

「あなたがわたしに嫁いできたわけは、分かっています。兄君・信長公の捨て石になる覚悟の上でのことでしょう。天下取りには、京の朝廷の権威がいる。その京へ上るには、近江は避けて通れない。故にあなたを送り込んだ。誰が見ても、明らかです」

「しかし、それだけ明らかなことを堂々とやってのける織田信長という人物に、わたしは興味があるのです。強き御方に惹かれると言ってもいい」

「あなたも、強そうだ」



長政はお市の美貌だけではなく、その強さにも惹かれたようです。


「まるで武将のような目をしている」と、長政は言いました。

そして、こう付け加えます。

「しかし、その奥に、女が見える。心やさしき女です」


今度は、お市が口を開きました。

ひとつ約束してほしいと、長政に申し出る。

「わたくしに隠し事はしてほしくないのです。何かを隠している気配があれば、それを兄に知らせねばなりませぬゆえ」

そんなことを、堂々と言ってのけました。


が、長政も大したものです。

「では、すべてを話せば、兄上には伝えないと?」

そう言って、微笑む。


これにはさすがのお市も、言葉に詰まりました。


声に出して笑う、長政。

確かに、お市には武将のような面と、女の面が。

「分かりました。あなたには、隠し事も秘密も持たないようにします」

そう約束した長政ですが、真顔になって、お市にも頼み事があると。

「琵琶の海は、他と比べようのない湖です。豊かな水とそこから獲れる多くの魚介でみなの暮らしを潤し、遠くは京までも、人や物を運んでくれます」

「琵琶の海とこの近江の国が、わたしは好きです。この土地と、琵琶の海、そして、ここで暮らす民たちを、あなたにも愛してもらいたいのです」



「それが、頼み、ですか?」と、お市。

何を頼まれるのかと思ったら、土地と領民を愛せという。

そして、じっと琵琶湖を見つめている。

この男はいったいどういう者なのだろう?

よく分からぬまま、お市も長政の傍らで、琵琶湖を眺めました。





NHK大河ドラマ歴史ハンドブック 江(ごう) 姫たちの戦国 (NHKシリーズ)





ささやかな婚姻の儀が執り行われ、その数か月後。

お市は、あの、長政と一緒に琵琶の海を眺めた場所に。

「ここからの景色は見飽きぬのう」と、お市。


乳母の須磨は、しみじみ言いました。

「御方様は、御変わりになりましたね」


が、当の本人は、「何が?」と、気づいていない様子。


その変わった部分は、すぐに出ることに。

殿が帰ったと聞くや、お市はいそいそと城へ。

澄ました顔はどこかへ行って、いつの間にか若き妻の顔に。



長政は、うれしい知らせを持って帰ってきました。

信長がやって来るというのです。

そして数日後、信長一行が到着します。


そこに、明智光秀(市村正親)と共に、足利義昭(和泉元彌)が。

義昭は、第13代将軍・足利義輝の弟です。

ところが、その兄たちが暗殺され、囚われの身に。

そこから何とか脱出し、今は越前の朝倉義景を頼っているはず。


義昭は一向に上洛しようとしない義景に見切りをつけ、明智光秀を仲介とし、織田家と接近したのでした。

そして今、信長に迎えられ、上洛を目指す。

義昭には幕府再興という思惑が、信長には天下統一の思惑があります。


信長は義昭のことを、道具にすぎないと言いました。

「武力を用いての上洛は、たやすい。しかしそれでは、歯向かう者どもが多く現れよう。だが、義昭を担いで京に入り、将軍に据えればどうか。その威光のもと、武家も公家も寺社も、従わざるを得なくなる。天下人への道は、自ずと開けよう」



永禄11年(1568年)9月、信長は足利義昭と共に、上洛を開始しました。

道中、これを阻もうとする六角氏を攻撃し、鎮定。

これにより六角氏は追われ、長政は領地を広げる結果に。


10月、義昭は室町幕府15代将軍の座に就きました。

その義昭より、信長は副将軍に任じたいと持ちかけられます。

が、これを断る。

管領の座も、断りました。

畿内五国をとの申し出も断り、信長は和泉の境と近江・大津・草津を織田家の直轄領とすることだけを願い出る。

そして、早々に帰国します。

この態度が、義昭にしてみれば、面白くありません。



近江では穏やかな日々が続き、永禄12年(1569年)、お市は、第一子・茶々を授かりました。

そしてその翌年には、初が生まれる。

浅井家は、喜びに包まれます。


しかし、永禄13年・元亀元年(1570年)、浅井家は選択を迫られることになりました。

信長と義昭の対立が深まる中、朝倉義景(中山仁)が、義昭に組すると宣言。

朝倉家は浅井家にとって、古くから大恩ある間柄です。それもあって、父・久政は朝倉家に呼応して共に立つべきだと、強く主張しました。


織田家と朝倉家に挟まれる格好になった、長政。

その場では、承服しかねると返事をしましたが…



織田家と朝倉家が同盟を結んだ際、「朝倉への不戦の誓」が立てられていたといいます。

同盟がある限り、(浅井家と縁の深い)朝倉には進軍しない。仮に攻撃する時は、必ず一報を入れる。

しかし、この誓が破られ、信長が朝倉の城を攻めるという情報が。

長政はお市に、すべてを話しました。

「知っての通り、我が浅井家は、朝倉家と縁が深い。この民たちの安らかな暮らしがあるのも、元はといえば、朝倉家のおかげ」

「市、そなたなら、どうする? 恩ある家との義を守るか、それとも、妻の兄に従うか?」

「わしは、朝倉殿に、恩に報いようと思う」

「そなたは遠慮せず、信長公に知らせるがよい。兄の名誉を守る、それがそなたの義であろう故な」




お市もまた、板挟みにあい、選択を迫られました。

以前なら、悩むことなく、兄・信長に報告している。

しかし、今は違います。

長政を愛し、近江を愛している。

また、目の前には、ふたりの子が。


子らの寝顔を見ながら、お市は思い悩みます。

ふたつの故郷、ふたりの愛する人。


須磨に促され、信長に知らせるべく筆を走らせる、お市。

しかし、ほどなく、筆が止まりました。

決断がつかない。


そこで須磨は機転を利かせ、両方を糸で縛った――まるで鼠のような――小豆袋を用意。

これを送れば、「袋の鼠」と分かってくれるだろう。

浅井と朝倉に囲まれれば、袋の鼠も同然。

これを密かに送れば、通じるはず。


が、これを、お市は投げ捨てました。

誰も裏切りたくはないが、どちらかを選ばねばならない。



長政のもとを訪れ、お市は訊きました。

「なぜ、仰せにならぬのですか? 浅井長政の妻として、生きよ。兄・信長ではなく、自分を選べと」


「わしは、そなたを愛おしく思う」と、長政は答えます。「愛おしく思う者が望むことは、わしが望むことでもある」


「ならばあなた様は、間違えておいでです」、そう話すお市。「わたくしの望みは、織田信長の妹としてではなく、あなた様の妻として生きることにございます。そうなのです」


長政は驚きました。

「なぜ、いつからそのようなことを…」


しかし、それは、お市自身にも分からないという。

「ただ、あなた様と、ふたりの娘と、そして、琵琶の海が、わたくしの身と心を変えてしまったのやもしれませぬ」

これでよいのだと、お市は言いました。


長政も、腹を括ります。

「ならば、そうしよう」

そう言って、市の髪を撫でる。

「市、わしの妻として生きよ」


「はい」と、市。

未来は見えませんが、愛する人を、目の前に感じる。

それを信じて、生きようと思う。





浅井長政正伝―死して残せよ虎の皮 (人物文庫)





徳川家康(北大路欣也)と共に、信長は越前に進軍していました。

が、そこへ、浅井が裏切ったという報が。

優勢に進撃を続ける信長軍でしたが、背後をつかれ、形勢が逆転してしまいます。

これでは、退路を断たれた上に、挟み撃ちの形になる。


やむなく、信長は撤退を決めました。

殿(しんがり)には、光秀と秀吉を据えます。

これが、「金ヶ崎の戦い」。

窮地に追い込まれた信長ですが、光秀・秀吉の活躍もあって、何とか京に逃れます。


ひとつを選ぶとき、もうひとつを捨てなければならない場合があります。

長政は朝倉氏との縁を選び、お市は長政を選んだ。

結果、信長は危機的な状況に。

危うく命を落とすところでした。

しかし、それを脱した今、選択の遺恨が、跳ね返ります。



その二ヶ月後、琵琶湖に注ぐ姉川を挟んで、浅井・朝倉軍と、織田・徳川軍が、睨み合う。

元亀元年(1570年)6月28日早朝から、戦いは はじまりました。(姉川の戦い)

数に劣る浅井・朝倉軍でしたが、はじめは優勢だったといいます。

しかし、徳川軍が善戦し朝倉軍を敗走に追い込むと、戦況に変化が。

徳川の部隊が織田軍の増援に駆けつけ、形勢は逆転します。

結果、戦いは織田・徳川軍の勝利に終わりました。


この時、凄まじい数の戦死者の血で、姉川は赤く染まったという。

姉川付近では、今も「血」とついた地名が残るといいます。


が、この戦も、3年に及ぶ長い戦のはじまりにすぎませんでした。



姉川の戦いで撤退した浅井・朝倉の両軍ですが、その後、またも信長の背後をつこうとします。

この戦いで、信長の弟・織田信治が戦死。

その際、延暦寺の僧兵が、浅井・朝倉の連合軍に加勢していました。

また、浅井・朝倉軍が比叡山に立てこもると、比叡山側はこれを庇護します。

一方では、本願寺・顕如により、一向一揆が勃発。

信長の弟・織田信興が自害に追い込まれています。

各地で、信長の包囲網が敷かれてゆく。


このような状況の中で、信長はある決断をしました。

元亀2年(1571年)9月、抵抗を続ける比叡山延暦寺を焼き討ちしたのです。

織田家に刃を向ける者は容赦なく叩き潰してゆく。

こうして、浅井家は次第に追い込まれてゆきました。



やがて、信長軍は、大軍を率いて、北近江へ。

小谷城からも大軍が見え、時には銃声が聞こえる。

幼い茶々と初は、乳母らと共に、耳を押さえ、震えました。

お市は子らを抱き、大丈夫じゃと、励まします。



元亀4年・天正元年(1573年)、信長軍侵攻に対し、長政は小谷城に籠城。

後ろに朝倉軍が控えているため、信長は すぐには軍を動かしませんでした。

そんな中で、浅井側から離反するものが加速し、孤立の色が深まります。


その小谷城で、思わぬ事態が。

お市が、懐妊していたのです。

乳母・須磨に、お市は言いました。

「この子は、産まぬ。産んだどころで死ぬ定めなら、いっそ生まぬ方がよい」


須磨は織田に帰ることを勧めましたが、お市は聞き入れません。

長政にも告げぬまま、薬で流そうとする。

「母を、ゆるせよ」

そう言って薬を口にしようとした、その時、思わぬ者が、止めに入ります。


4歳になる茶々(芦田愛菜)が、3歳の初(奥田いろは)を連れ、襖を開けました。

茶々は、お市と須磨のやり取りを聞いていたのです。

手には、短刀が握られていました。


「お腹の稚(やや)を殺すなら、初を殺して、わたくしも死にまする」

死を賭しての、茶々の願いでした。

「わたくしは、本気にございます」


じっと茶々の目を見た後、お市はゆっくりと立ち上がる。

視線は娘に据えたまま、歩み寄ります。

「死ぬ気なら、母が斬って進ぜよう」

「死ぬのは、難しいぞ」


茶々の顔をじっと見ながら、そう言います。

「斬り方を過てば、ただ痛~いだけじゃ」


一瞬、引いたような色が出たように思えた茶々ですが、「かまいませぬ」と。

「死ぬまで、己を刺しまする」

そう言って、退かない。


「わたしは嫌です」と、初は泣きました。


それを茶々が、「静まれ!」と叱る。


咄嗟にお市は茶々から短刀を奪い、畳に投げ捨てました。

「馬鹿なことをするでない!」

そう言って、茶々を抱きます。


泣きながら、茶々は訴えました。

「母上、稚(やや)を産んでくださいませ」

「わたしたちには、弟か妹にございます」

「御願いします。母上、御願いいたします…」



幼い命が、より幼い命を救おうとした。

声を震わせて泣きながら、必死で訴える。


お市は、その心を受け取りました。

「分かった」

「茶々、母が、母が間違っておった」



お市は茶々を抱き、そっと背中を撫でます。

その胸の中で、茶々は泣く。

見守る乳母たちや初も、泣きました。

みんなみんな、泣いた。



その夜、一部始終を、市は長政に話しました。

ふたりは茶々の中に隠れていた気性に驚かされた。

「物静かな子のどこに、あのような強さがあったものか」

そう漏らすお市に、長政は言いました。

「そなたに似たのであろう」

織田の豪気の血が、茶々にも。


子を流そうとしたことを詫びるお市に、長政も詫びます。

「そこまで追い詰めたは わしでもある、ゆるせよ」

そして、それを救ってくれたのは、茶々だと。

「この子は一生、茶々には頭が上がらぬのう」


お市はお腹に手を当て、

「運の強い子にございます」と。

しかし、不安が拭い去られたわけではありません。

「でも、ほんにそれでよかったのかどうか…」、そう漏らす。


長政は城外を眺めながら、言いました。

「よかったのじゃ」

「その子は、希望じゃ」

「希望じゃ」




しかし、戦況はさらに悪化します。

7月、立てこもり抵抗を続けていた足利義昭が降伏。

義昭は京から追放されることとなり、230年余り続いた室町幕府が終焉を迎えます。


浅井家にとって頼みの綱であった朝倉義景も、小谷城に駆けつけようとしましたが、敗北。

撤退する朝倉軍を信長自ら猛追し、大打撃を与えます。

もはや義景に求心力は無く、兵は離散し、家臣は裏切りと、完全に手詰まりに。

8月20日、義景は自害しました。

こうして100年の栄華を誇った朝倉家も、滅びることに。



浅井家を助けるものは、もうありませんでした。

反撃の手段もないまま、城を信長軍に囲まれる。


そんな中で、ひとつの命が生まれます。

天正元年(1573年)、銃声が響く中、お市に三女が誕生する。

その産声を耳にし、傷つき疲弊した兵たちも、顔を上げました。

自然と痛みと悲しみの色は消え去り、みな一様に笑みがこぼれる。

赤子の泣き声が、それらを吹き飛ばし、安らかな気持ちを運んできました。


誇らしげに、長政はその子を抱きました。

そして櫓(やぐら)にのぼり、琵琶の海を臨みながら、名を決める。


「この子は水の国・近江の地に生まれし子じゃ。この一字を、名にしようと思う」

長政は「近江」と筆で書き、「江」に丸印を加え、お市に見せました。


「江(ごう)、よき名です」と、お市。


長政は茶々に言いました。

「そなたのおかげで生まれた妹じゃ」


江は無邪気に眠っている。

それを眺めると、長政にも、お市にも、茶々や初にも、自然と笑みが浮かびました…





戦国の凰お市の方





しかし、戦いは止むことを知りません。

朝倉氏を滅ぼした信長は、北近江にとって返し、全軍に総攻めを命じる。


攻撃を指揮するのは、秀吉。

3千の兵を率いて、孤立する小谷城を攻略します。

織田の大軍が、城になだれ込みます。

籠城により疲弊していた浅井軍に、なす術はありませんでした。


もはやこれまでと、小丸に籠っていた父・久政は自害。

長政はお市を呼び、城から出るように説得します。

「そなたとの間に授かりし、花のようなる姫たち。姫たちを手にかけるのは、不憫でならぬのじゃ」

「よいか、市、そなたは江を産んだ。あの時から、死ぬことは赦されぬのじゃ」

「江は、江は希望故な」



お市は納得しませんでした。

夫と運命を共にすると、決めている。


そんなお市の手を引き、長政は門へ。

娘たちと乳母らが、待っていました。

「信長殿には既に使いを出してある。この命と引き換えに、そなたたちを生かしてくださるように」

長政はそう言いますが、お市は、いやです、と拒む。


小太刀をお市に握らせると、長政は言いました。

「そなたと共に生きられたこと、我が誇りとする」

「さらばじゃ」



泣く子らの前で、長政は必死に笑顔を作ります。

涙を堪え、息を呑み、お市の髪に触れてから、戦場へと戻る。


「姫たちを頼むぞ!」

門が閉じられ、夫であり父である長政は、向こう側へ。


天正元年9月1日、浅井長政は、自刃しました。

近江の地に3代続いた浅井家ですが、ここに滅ぶことに。



お市と3人の娘は、織田の陣に運ばれました。

無事を喜ぶ秀吉ですが、お市は、寄るでない! と一喝する。

茶々も、「母上、この者が仇(かたき)にございますか」と睨みます。


「仇は、わしじゃ」

そう言って現れたのは、信長。

「嫁入りの前、そちは申したな」と、信長はお市に言う。「わしのために生涯を尽くすと」

「しかし、裏切った」



お市は、「それを悔いてはおりません」と、兄を見据え答えます。


「そうか」と、信長。

「いかにも市じゃな」と、笑ってみせます。


信長は、茶々と初に目をやりました。

そして、生まれたばかりの江にも。

何も知らない江は、乳母の手の中で、無邪気に笑っている。


「戦の最中に産んだか」と、信長。

「これもまた、いかにも市らしい」


お市は言います。

「この子は希望だと、長政さまは仰せでした」

「この子と姫たちのため、わたくしは夫と共に死なず、生きる道を選んだのでございます」



「ならばその命、せいぜい大切にせよ」

そう言って、信長は去りました。


その命、せいぜい大切にせよ。



お市も、茶々も、初も、そして江も、生きねばなりません。

戦国の世の中で、激しい運命の中で、それでも生き延びねばならない。


江は、笑っていました。

何も知らぬからか、それとも、生まれ持った天性か、

乳母の胸の中で、母と姉たちを見つめ、笑っている。

その目には、希望と可能性がつまっていました。

明日に向かって、輝いている。


江を抱く、お市。

江は、声を出して笑っている。

お市も、茶々も、初も、泣きました。

しかし、江の笑顔が、明日を照らしてくれる。

灯となって、明日に導いてくれるかのように…




やがて成長した江は、己の運命を知ることになります…





新装版 江(ごう) 姫たちの戦国 上





<感想>

織田家の者として、信長の妹として嫁いだ、お市。

今の時代とは違う戦国の世ですから、そんなアイデンティティーが強かったのでしょう。

しかし、お市は長政を知り、浅井家の者となり、長政の妻となりました。

またやがて、茶々・初・江の、母となる。


選択を迫られた時は、まだ、織田家と浅井家、両方を持っていたのかもしれません。

ふたつを持つ時、人は、葛藤に苦しみます。

長政も、織田家と朝倉家の間で、苦しんだ。

そして、お市も、浅井家と織田家の間で、悩み苦しみます。


苦しんだ末、お市は、浅井家と運命を共にすることを選びました。

滅びるなら滅びるでいいと、覚悟を決めた。


ふたつを持てば、悩み苦しむ。

さりとて、何も持たないのがいいとも思えない。

ならばひとつだけ持てばいいのかというと、そうでもない。

ひとつのみを持つ時、それが悪化すれば、命取りになる。


そのような布置は、戦国の世も、今も、変わらないのかもしれません。

生き抜こうと思えば、何かと何かを持ち、時には選ばねばならない。

選ぶ前には、悩み苦しむ。

しかも、選んだからいい結果が来るとは、限らない。


でも、苦しんで苦しんで決めた者は、後悔しないのかもしれません。

現代の病理は、むしろそれを避けようとして、他のことに苦しむことかも…





戦国の女たち―司馬遼太郎・傑作短篇選 (PHP文庫)





う~~~~~~~~~~~ん

う~~~~~~~~~~~ん

う~~~~~~~~~~~ん


(いや、別に、他意はありません)




「第2話 父の仇」>>





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大河ドラマ「江~姫たちの戦国~」、第2話「父の仇」より――




江(ごう) 姫たちの戦国 前編 (NHK大河ドラマ・ストーリー)




小谷城が落ち、浅井長政(時任三郎)が亡くなって数年、お市(鈴木保奈美)と3人の娘たちは、兄・織田信包(のぶかね:小林隆)の暮らす伊勢・上野城に身を寄せ、静かな日々を送っていました。

今日は、次女・初(水川あさみ)と三女・江(上野樹里)が、潮干狩りをしている。

それを見守る母・市は、「あのふたりを見ていると、心が和みます」と。

信包も、ほんにのう、と目を細めました。

ただ、長女・茶々(宮沢りえ)は、こんなことを。

「でも、わたしは今でも、あの日の夢を見ることがあります」

父・長政が逝った、あの日を。


そんな市たちに、信長(豊川悦司)から文が届いていました。

市の兄であり、茶々たちの伯父にあたる、信長。

そして、仇(かたき)でもある。


初と江は潮干狩りのことで喧嘩をしています。

まるで子供のよう。

そんなふたりも、茶々が手にしている文に気がつきました。


心中穏やかならぬ顔をしている、茶々。

しかし、江だけは、無邪気です。

「すごい、何て書かれてあるのですか?」と、訊きます。


複雑そうな顔をしつつも、お市が答えました。

「兄上様は、安土という地に、何年も前から城を築いておられる。その天守が間もなく完成する故、見にまいれという御誘いじゃ」


「うれしい!」と、素直に喜ぶ、江。

「わたしは伯父上に、天下人織田信長さまに、会ってみとうてならなかったのでございます」


そうか、と信包。

みなで行ってくるがよい、と勧めました。


やった! と喜ぶ、江。

「伯父上に会える! 織田信長さまに会える!」

喜びながら、波間に駆けてゆきました。


が、茶々の表情は冴えません。

初も、「父上さまの仇とも知らずに…」と。


あの時、江はまだ、生まれたばかりでした。

故に、茶々や初とは違い、事情を知りません。

姉たちの心痛を知るお市は、末の江だけには、まだ話していませんでした。

できることなら、話さないままでおきたい。

しかし、それは赦されぬようで…



江も、姉たちの振る舞いに、違和感を感じていました。

それを、乳母のヨシ(宮地雅子)に漏らします。

姉たちは、せっかく伯父上に招かれたのに、ちっとも嬉しそうな顔をしていない。

なぜ、あのような浮かない御様子なのだろうか?

おかしいといえば、父上のこともだ。

亡くなった時のことを、誰も話してはくれない。

その話となると、みな逃げるようなそぶりをする。


「悲しい思い出だからに、ございましょう」と、ヨシは言いました。

でも、江は納得できない。



天正7年の夏、お市は娘たちを連れ、安土に旅立ちました。

(ん? 江が、7歳?)

複雑な面持ちの、お市に茶々。

初は、口をとがらせています。

しかし、江だけは、うきうき気分。


城下に入っても、ひとりはしゃぎ、走り回る。

「見よ、ここが安土じゃ、伯父上の作られた町じゃ!」

事情を知らないからこそ、目に曇りがありません。

目にしたものを、素直に喜ぶ。


そんな前に現れた、安土城の姿。

五層七重の荘厳な様に、江も息を呑みました。


茶々や初も、目を見張る。

お市は、「いかにも、兄上さまらしき城じゃ」と。



城に入ったお市を、明智光秀(市村正親)が訪ねました。

「あの折の、御夫君たる、浅井長政さまの御自害、さぞかし御心を御痛めのことと…」


そう言いかけた光秀の言葉を、お市は遮ります。

「そのことは、もう…」


光秀によれば、信長は城郭内に、総見寺(見寺)という寺を建立し、そちらにいるという。

兄が寺を?

思わずお市は、そう漏らしました。



天守に通された、茶々、初、江。

柱や壁には金箔が貼られ、襖や天井には宗教画のようなものが描かれている。

その華麗さに、みな見とれました。

普段うるさい、初や江さえ、言葉を失っている。


その五階には、仏教の世界が描かれていたといいます。

「これは釈迦説法図と申します」と、案内役が説明してくれました。

「お釈迦様の話に菩薩や弟子たちが聞き入っておりますが、それを空から天女が見守るという、荘厳な情景にございます。こちらの柱には、御覧のように竜神が飾られ、上り龍、下り龍が、共にここを守っておりまする」


「うわ~っ、すごい!」と、江。

天守からは、琵琶湖が見えました。

それを江は、海だと勘違い。

初が、琵琶の海、大きな湖だと教えます。


「あの向こうに、小谷の御城がある」と、茶々。

茶々と初は、小谷城に向かい、手を合わせました。

遅れて、江も姉をまねて、手を合わせる。



案内役のふたりが、あらためて挨拶しました。

森坊丸(染谷将太)と、森力丸(阪本奨悟)。

信長の小姓とあって、美しい姿と振る舞いをしている。

初は、思わず見惚れてしまいました。

麗しい、と言葉が漏れます。


「初、口を閉じよ」と、茶々が戒めます。

江も、「姉様、口、く~ち」と。


坊丸は言いました。

「我ら普段、おやかた様の小姓として、御身の回りの世話を務めておりまする」

ふたりには蘭丸という兄がいて、常におやかた様の傍に仕えているとも。


「では、3人兄弟。わたしたちと同じにございますね」と、初。


が、存命する兄弟は、5人だという。

また、父と長兄は、おやかた様のため身命を賭して戦い、戦場に散ったとも。

「父と兄は、名誉の死を得たのでございます」

力丸は、そう答えました。


「わたしたちの父も、戦で命を落としました」と、初。

坊丸は、「存じております」と。「北近江の浅井の御殿様でございますね」

力丸も、「立派な最期であられたとか」と。


それを聞いて江は、「あのう、どのような…」と訊こうとしましたが、茶々に遮られてしまいました。

茶々は、「戦で死ぬのに、立派も名誉もありはしませぬ!」と。


御無礼いたしました、と頭を下げる、茶々。

坊丸はただ、いえ、とだけ言う。



そしてついに、お市と娘たちが、信長と対面することに。

緊張の面持ちの姉たちに対して、江だけは口元を上げ、いかにも楽しみといった風。


通されると、そうそうたる家臣たちが、はは~っ、と頭を下げます。

「長の御道中、御苦労に存じまする」

そう挨拶したのは、ひげの もじゃさぶろう 柴田勝家(大地康雄)。

「本日は、お市の様方、ならびに姫君方と、拝眉の栄に浴し、恐悦至極に存じ奉りまする」


「方々、面を御上げ下され」

お市がそう言うと、やっとみなが顔を上げました。

その様を見て、江も初も、驚きます。

娘たちにとってお市は母ですが、家臣たちにとっては、主君の妹君です。


「叔母上、御無沙汰いたしました」

そう挨拶したのは、信長の嫡男・信忠(谷田歩)。

信忠は娘たちにも、「我ら従兄妹同士じゃ、会えてうれしいぞ」と。

その傍には、二男の信雄(山崎裕太)、三男・信孝(金井勇太)の姿も。


あらためて娘たちに、柴田勝家が紹介されました。

勝家は娘たちを前に、「御辛きことは、数々おありになったやもしれませぬ。されど…」と、言葉を詰まらせます。

そして一礼すると、元の座に戻りました。


不思議そうな顔をしている江に、お市が説明します。

「小谷を離れた我らの無念を、慮って(おもんばかって)のことであろう」


続いては、徳川家康(北大路欣也)と長男・信康(木村彰吾)が挨拶を。

娘たちを眺めるや、家康は、「う~む、何とも惜しいことを」と、唸ります。

「よもや織田さまに、これほど麗しい姪御が3人も御ありとは」


顔を見合わせる、茶々、初、江。


「これは御無礼をば」と、家康は頭を下げます。

「我が嫡男、信康にございます。この者の嫁は、織田さまの御息女(徳姫)でしてな。ふたりも子をなしながら、我が妻、すなわち姑(築山殿)とそりが合わぬ様子なのです」


江は、無邪気にも訊ねました。

「あのう、惜しいとは、それはつまり、わたしたちの誰かを嫁にすればよかったと?」


「まさに、その通り」と、家康は はっきりと答えました。



そしてついに、信長が到着します。

「きた!」と、江。

全員がひれ伏し、主を迎えます。


「面を上げよ」

信長の声に、みなが顔を上げる。

江は初めて、伯父・信長の顔を見ました。


他にはない威厳が、そこにはありました。

自然と服従してしまう。

有無を言わさぬ厳しさに、圧されそうになります。

空気までもが、緊張する。


「久方ぶりじゃのう」と、信長。

「息災であったか?」と、お市に声をかけました。


はい、と答えたお市ですが、目は合わせません。

「兄上様も御健勝の御様子、何よりに存じます」と、冷めた挨拶を。


茶々か、と信長は娘に目をやりました。

息を呑むように茶々は、はい、と答える。

初、と呼ぶと、初も何とか、はい、と返事を。


さあ、次はわたしだ! と背筋を伸ばす江ですが、その前に、信長は茶々と初に話しかけました。

「ふたりとも、さぞやわしを恨んでおろうのう」


それを耳にして江は、?????と。


「さようなことは、ございません」

震える声で、茶々がそう答えました。


「まあ、よい」と、信長。

そこでやっと、江に目を向けます。

「そちは…、おう、あの時の赤子か。名は何と申す?」


「江(ごう)にございます」


「生まれ年は、天正の初めであったな」

信長がそう言うと、江はうれしそうに「仰せの通りにございます」と。


が、冷めた口調で、お市は言いました。

「その年だけは、覚えておいでのようですね」


「ああ」と、信長。

「あれはたいへんな年であったからなあ」


睨みつけるように、お市は兄を見据えます。

信長も妹を、見つめる。


!!


と、信長は脇差を抜くや、畳に突き刺しました。

場が、一気に凍りつきます。


信長は言いました。

「されど、それも昔の話。みながみな、この城を振り仰ぎ、わしに向かって額ずく時がまいったのじゃ」


しかし、お市は引きません。

「さようでございましょうねえ。何と申しましても兄上様は、強運の持ち主でおわします…」


「運だけで天下が取れるとでも、思うたかっ!」

ついに信長も声を荒げました。


江は思わず、すくみ上ります。

が、母は、氷のような炎を目に宿し、じっと兄を見据える。


「これはいかん…」と、家康。

光秀も、小姓の蘭丸(瀬戸康史)も、危機を感じます。


と、そこに、間の抜けた声が。

「おやかたさま~」

そう言って現れたのは、チンパン探偵ムッシュバラバラ、いや、北京原人 Who are you? 、でもなかった 羽柴秀吉(岸谷五朗)。

空気を読まないこの男は、「おやかた様、御無礼仕りまする~」と、進み出ました。


気がそがれた信長は、「サル」と。

そしてそれを聞いた江も、反応します。

なるほど、顔がサルだ!


「毛利攻めは、どうした?」と、信長。


「御言いつけどおり、播磨の三木城を、攻めておりまする」と答える、秀吉。「今は城を囲み、兵糧攻めに及んでおりまする」


そう自慢げに報告する秀吉ですが、信長は畳に刺さっていた脇差を手に、歩み出ます。

そしてそのまま、秀吉を殴りつけました。

畳に這いつくばる、秀吉。

が、すぐに戻り、「ありがたき、ありがたき幸せに存じ奉りまする~」と。


「誰が戻って来いと言うた! この大うつけの、小猿めがっ!」

怒りを爆発させ再度殴る、信長。

脇差を手にした拳で、何度も秀吉を打ちます。

顔を背けたくなるような鈍い音が、響きました。


「御許しを~」と、秀吉。

「天守が成ったと聞きましては、居ても立っても居られなかったのでござります~」

そう言って、腫れあがった顔で、何度も頭を下げました。


と、そこで初めて、秀吉はお市がいるのに気づきました。

座ったまま駆け寄り確認する秀吉と、扇で顔を隠すお市。


「こっ、これは、お市の方様!」

額も擦り切れんばかりに、秀吉はひれ伏しました。


「サル!」と、信長が一喝します。


が、しばし御許し下されと、秀吉はお市に向かう。

「この秀吉、あれよりずっと、御詫び申し上げとうございました。長政さまを、御切腹に至るまで追いつめしことにございます」


父の死の事情をはじめて耳にする、江。

せっかく隠し続けたことも、空気を読まない原人のせいで台無しに。


「サル~っ!」

勝家が飛出し、秀吉を蹴り飛ばしました。

「詫びて己の気が済めばよいのかっ?! お市さまと姫君方に、いかに酷いことを申しておるか分からぬかっ!」と、どやしつけます。


「まいるぞ」

江の手をとって下がる、お市。



信長との一触即発の事態を秀吉に救われたかに思えましたが、すぐに秘密を洩らされてしまいました…





NHK大河ドラマ歴史ハンドブック 江(ごう) 姫たちの戦国 (NHKシリーズ)



戦国三姉妹  茶々・初・江の数奇な生涯 (角川選書)





「あれは、どういうことなのですか?」

江は母に問いました。


「そなたに、いつかは話さねばと思っていたが…」と、お市。


突然のことに、江は興奮します。

「何をですか? 父は、切腹して亡くなられたのですか? それはいったい、なぜなのです…」


信長の前でも表情を崩さなかったお市ですが、江の訴えに、苦悶の色を。

そして、今まで起こったことを、すべて話しました。


兄・信長の野望、上洛、やがてはじまった戦、義を貫いた夫・長政と、その果てに待っていた長き戦い。

激しい戦火を浴びる御城で、江が生まれたこと。

さらには、妻・お市と3人の娘を逃し、自ら死を選び取った、夫・長政の覚悟。


「では、伯父上が、父上の仇なのですか…」と、江。


お市は、「城攻めの先頭に立っていたのは、あの秀吉であるがの」と。


「それを今まで、なぜ、わたくしには教えて下さらなかったのですか?!」

江の声は、自然と大きくなりました。


が、それを初の声が打ち消す。

「勝手なことを申すな!」


驚く、江。


お市が、さらに事情を説明します。

「我らは織田家にあっては裏切り者。肩身の狭い想い、茶々や初には、味わわせても来た」


「分かるか、江?」と、初。「そなただけが今日まで、のうのうと生きてまいったのじゃ。伯父上への怖れや憎しみにも、縛られずにな!」


「怖れ?」

江には、意味がよく呑み込めません。


初は続けました。

「比叡山延暦寺にまで焼き討ちをかけた男じゃ。相手が誰であれ、平気で殺す、それが織田信長という男なのじゃ!」


「もうよかろう」と、お市が止めました。「一時(いちどき)に何もかも聞かされた江の気持ちになってみい」


が、今まで抑え込んでいた分、初は止まりません。

「まだあるぞ…」


今まで黙っていた茶々も止めます。

「やめよ、初」

しかし、それでも、初は止まらない。


「伯父上はなあ、父上の髑髏(どくろ)で杯を作らせ、家来と酒を酌み交わしたのじゃ!」

そう叫んだ初を、茶々が打ちました。

初は畳にうずくまり、声を上げて泣く。

そして、お市にすがり、袖をつかみながら、泣きました。


「すまぬ、初」と、茶々。


「伯父上が、仇…」

あまりのことに、江は整理がつきません。

「髑髏の、杯…」



寝間に入っても、江は眠れません。

事実は聞かされたものの、どう呑み込んでよいか分からない。

よく分からない感情だけが渦巻いて、その先に進みません。

行き場のない想いが、ぐるぐると身体の中を駆け巡る。



どんっと、秀吉は家康の前に、酒の入った赤い瓢箪を置きました。

頭部には、包帯が巻かれている。

「先ほど御取り成しいただいた御礼にございます」と、秀吉。

「あのままでは柴田殿に殺されるか、おやかた様に城から放り出されておりました」

秀吉は朱色の杯を2つ取り出すと、1つをうやうやしく家康に差し出す。


「では、遠慮のう」

家康がそれを受け取って、秀吉が酒を注ぎます。


と、ごめんくださりませ、との声が。

戸が開くと、そこには、江が。


お市の方の娘と知り ひれ伏す、秀吉。

江は、それが秀吉であることに気づくと、怒りに任せ、馬乗りになりました。

申し訳ございませんと謝る秀吉を、後ろから畳にたたきつける。


それを家康が止めました。

「姫様っ、討つか討たれるか、それまでを必死で戦う、戦とはそうしたものにございます」


江は秀吉を睨みつけ、言いました。

「もし、わたしと母上、姉上にすまぬと思うておるのなら、ならば、伯父上のところへ連れて行け!」

信長に聞きたいことがあるのだという。

逆鱗に触れて殺されても構わないからと。


「伯父君は天守においででしょう」と、家康が教えてくれました。

「案内役をつけますかな?」


江はそれを断りました。

「いえ、ひとりで行けます」



天守へ向かう、江。

それを、秀吉がこっそり追いました。


息を呑み、天守の襖に手をかけようとした、その時、槍が目の前に。

腰を抜かす江の前で、襖が開きました。

信長が、そびえるように立っている。


何も言わず、襖を開けたままで、信長は奥に下がりました。

そして、背を向けた状態で、「何の用じゃ?」と。


「はい、あの~、伯父上に御訊ねしたいことが、ございまして」と、江。

このような状況にあっても、逃げ出しもしない。


「ならば、入れ」

信長に促されて、江は中へ。


蝋燭の明かりの中、信長は机に向かい、本を手にする。

江に対しては、背中を向けたままです。

その体勢のままで、「何じゃ?」と。


迫力に気圧されそうになるのを堪えて、江は話しました。

「わたくしの父、浅井長政でございますが、父を自害に追い込んだのは、あの…」


「いかにも、この信長である」


「なぜに、ございますか?」と、江。

「父上は、実の妹の夫ではありませんか」


「それが戦じゃ」と、信長は即答しました。

そして、「しかし、そちの父は、類稀なる武将であった」と、付け加える。

「逆にわしが腹を切っておっても、おかしくはなかった」と。


「父上は、御強かったのですね」と、江。


信長は言います。

「誇り高き男でもあった」


江は訊きました。

「伯父上は御寺と、本願寺と戦っておられると聞きました。延暦寺を焼いたと…」


背を向けたままで静かに答える、信長。

「仏を信じる者の国は、浄土。つまりは、あの世にある。にもかかわらず、あの者たちは、現世の政に異を唱え、果ては槍鉄砲を持ち、大軍をなして戦に首を突っ込む…」

本を置いて、信長は江の方を向きました。

「おかしいとは、思わぬか?」


「思います」と、江。


信長は言いました。

「それもこれも、信心の衣に隠れて、権勢を我が物としたいが故じゃ」


「ならば伯父上は、何を信心しておられるのですか?」


江の質問に答える、信長。

「神も仏も、知らん。わしは、己しか信じぬ者である」

「そちも覚えておくがよい。喜びと共に生きたいならば、己だけを信じることじゃ」



「己、だけを…」

そう呟く、江。


もう遅いから休めと言う信長に、江は最後の質問を。

「伯父上が、父上の髑髏を用いて…」


「噂にすぎん」と、信長は言いました。

「戦の終わった次の正月、長政殿のしゃれこうべを、わしは薄濃(はくだみ:漆塗りに金粉を施すこと)にさせた。しかしそれは、亡くなりし者への礼節としてじゃ」

「戦った相手を讃え、その前で酒を酌む。勝者敗者が生ずるのは必定だが、ともあれ戦は終わった。共に着飾り、相打ち解けて、新しき年を迎えようではないか、とな」



「それがどうして、髑髏の杯に?」


「わしが何かをやると、いちいちそうした悪評が立つのよ」

そう信長は言いました。


「口惜しくはないのですか?」と、江。

「そのような勝手な噂を立てられて」


信長は、「言いたい者には言わせておけばよい」と。

「それもまた、己を信じることに、他ならん」

「今わしが言うておることを信じるも信じぬも、己を信じて、そちが決めることじゃ」



信長は、襖に刺さったままだった槍を抜きました。


伯父を前に、江は正直に話します。

「わたしは、いかなる理由があろうとも、織田信長という人が父を殺めたことをゆるせません」

「そんな己も信じよと、仰せなのでしょうか?」



信長は、槍を江に向けました。

そして、「面白い」と。

「わしに向かって、言いたいことを言いよる。そのような者は、滅多におらん」

そう言って、笑っている。


「そのようなことを言っているのではありません」

そう言う江に、信長はさらに槍を向ける。


「そちが男に生まれれば、よき武将になったやもしれんな」


じりじりと引きながらも、江は言います。

「武将になど、なりたくありません」


「そうか」と、信長。「なりとうないか」

「江、と申したな。そちは宝を持っておる。持って生まれし、その心根じゃ」


信長は、威圧の中に笑みを浮かべ、言いました。

「そのまま大きゅうなれ、江。己を信じ、己の思うまま、存分に生きよ」


「よく分かりませぬが…」


そう言う江に信長は、「いずれ、分かる」と。



その時、襖が開きました。

茶々と初が駆けつけたのです。


目の前では、妹が槍を突きつけられている。

これでは、勘違いしない方がおかしい。


茶々は、小太刀を抜き、構えました。

それに反応し、信長が槍を向ける。


「江、逃げよ!」と、茶々。


江は両者の間に入ります。

「ちっ、違うのです」

が、その手を初が引きました。


そこへ、お市も現れる。

「何の騒ぎじゃ」

と、こちらは落ち着いています。


茶々は小太刀を構えたままで、言いました。

「母上、江が殺されてしまいます」


が、お市は冷静に言いました。

「兄上様は、そなたたちを斬ったりはなさらぬ」

「兄上様も、大概になされませ」



信長は茶々に向けていた槍をお市に向け、それから収めました。


「おふたりの早とちりなのです」と、江。

そして、「でも、ありがとうございました」と、姉たちに頭を下げました。


開いた口がふさがらない、初。

「返せ、江! わたしの命と姉上の御命、縮んだ分だけそなたの寿命から返せ!」

信長の前だということを忘れて、姉妹喧嘩を。


いつもは口ごたえをする江ですが、今度ばかりはうれしいやら、申し訳ないやら。

「申し訳ありませぬ。そればかりは、叶いませぬ」と。


その様子を見て、信長は声を上げて笑いました。

「市よ、そなたは面白き娘たちを産んだものよのう」


「この者たちは、兄上様が滅ぼされし浅井家の娘にございます」と、お市は澄まして言う。

「見るべき何かがあるとすれば、それは、浅井長政の娘ゆえでしょう」


「うん」と、信長。

「一理ある」と。


茶々に近づき、信長は言いました。

「森坊丸と力丸には、会うたな?」

「あの者たちの父親と長兄は、今から9年前、戦で命を落とした。敵方の大将は、浅井長政であった」



驚く茶々たち。

そして、障子の向こうには、小姓である坊丸と力丸が控えている。


信長は続けます。

「わしがそちたちの父の仇なら、浅井長政は、あの兄弟の仇ということになる」

「(そのことを2人は)むろん存じておる」

「敵味方は明日にも転ずるのが乱世の習い。仇だからと憎んでおっては、侍は務まらん」



「それは、どこかおかしいのではありませんか」と、茶々は言いました。


「おかしかろうのう」と、信長は答えます。

「そもそも戦とはしょせん、男にしか分からぬもの」


「さようなことは、ございません」と、お市。

「女子には女子の戦がございます」、そう言います。


「おお」と、信長。

「いかなる戦じゃ?」


静かなる意志を持ち、お市は言いました。

「女子は思うまま生きることはできませぬ」

「夫を殺され、織田家にあっては裏切り者とそしられても、死ぬこともならず、抜け殻となって、今日まで娘たちと身を寄せ合って生きてまいりました」

「それがいつまで続くのか、明日がどうなるのかも、分かりませぬ」

「なれば、女の戦は、生きること。本日ただいまを生きていくことにございます」



「なるほどのう」と、うなずく、信長。


「遅くまで、御騒がせいたしました」

一礼して、お市と娘たちは下がります。


江は振り返り、伯父の顔を見ました。

威厳に満ち、己を信じ切る伯父ですが、眉間には、孤独の色が見えるような気がする。

が、今の江には、それが何なのか、よく分かりません。


先ほどまで江の中で渦巻いていた感情は、流されました。

しかし、別の感情が、また身体の中に生まれている。

それが流れずに、駆け巡っている。



再び家康のもとを訪れる、秀吉。

「御無事でございました~」と、長い息を吐きます。


「羽柴殿は、織田さまに仕えて何年におなりかな?」と、家康。

かれこれ25年になると秀吉が答えると、

「ならば、わざわざ確かめずとも、御分りでしょうに」と、言いました。

「あの姫は、織田さまに似ておられる。それだけにござる」と。



翌日、江がいないと、乳母たちは大騒ぎ。


江は、信長の軍議を覗いていました。

それに気づいた信長ですが、気づかぬふりをして、そのままに。

やがて、江の方を見ると、にやりと笑いました。


そんな娘の後姿を、お市は見つめる。

父を知らぬ江ゆえか、その背中は、信長に惹かれているようにも見えました…





新装版 江(ごう) 姫たちの戦国 上



完訳フロイス日本史〈1〉将軍義輝の最期および自由都市堺―織田信長篇(1) (中公文庫)
完訳フロイス日本史〈1〉将軍義輝の最期および自由都市堺―織田信長篇(1) (中公文庫)





<感想>


人は多面性を持つので、見る角度、見る部分によって、印象は変わってきます。

レッテルというものもある。

これはいわば、人間に貼られる札のようなもので、それが人間そのものを覆いだすと、中の人間が見えなくなります。


「○○の△△さん」というのだって、そう。

○○が勝ちすぎると、それが△△さんを、覆ってしまいます。


物心がついていた茶々と初にとって、信長は、「憎き親の仇の、信長」。

仇というのが強すぎて、多くを覆ってしまいます。

さらには評判も加わって、前者だけが肥大する。


が、当時、生まれたばかりだった江は、何も知りません。

幸か不幸か、その後も、事情を知らされなかった。

そして、その性格から、直に信長に問い、その人間性に触れます。


それですべてが分かるものではありませんが、それでも江は、札の向こうの、生身の信長に接しました。

札の向こう、

仮面の下、

鎧の中、

そんな中身に触れた。


伯父が親の仇だと知った江ですが、それだけではないものが、江の中に入って来ます。

その正体を、江はまだ知りません。


予告を見ると、次回はそれを探しに出るようですが、

さて、どうなるか…





そういえば、信長も信長で、目に曇りなく、身分の差なく、人に接したとか。

民衆に交じったり、踊った爺さんの汗を拭いたりしたとも聞く。


その才能ゆえか突出してしまう信長ですが、一番欲しかったのは、身近な理解者なのかなあ。

数歩前を歩くだけに、難しいことなんだろうけど…





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う~~~~~~ん~~~~~~~~~




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大河ドラマ「江~姫たちの戦国~」、第3話「信長の秘密」より――




江(ごう) 姫たちの戦国 前編 (NHK大河ドラマ・ストーリー)




天正7年(1579年)、伊勢・上野城。

天正元年に生まれた江(上野樹里)は、7歳。

誰が何と言おうと、7歳。

特に、着物の丈が、7歳。


市(鈴木保奈美)と娘たちが信長のもとを訪れてから、数か月が経ちました。

江は、すっかり信長の虜。

でも、初(水川あさみ)には、それが気に入らない。

今日は十五夜ですが、これがもとで、ふたりはまた喧嘩をはじめてしまいます。


乳母の須磨(左時枝)に教えられ、姫たちは、饅頭に穴をあけ、月を覗く。

でも、初はうまく穴を開けられず、饅頭をぱくり。


そんな姉を見て、江は言いました。

「姉様、大切なのは、まず己自身を信じることです」

「そして己の信じるまま、存分に生きるのです」

「喜びと共に生きるとは、そういうことです」



「さっぱり、分からぬな」と、初。


でも、江は、まだ信長の真似を続ける。

「今は分からなくても、よいのです」

「それが伯父上の、織田信長公の教えです」



こうなると、初も黙っておれません。

「ええい、すっかり伯父上にかぶれおって!」と、立ち上がる。


が、江も負けない。

「かぶれるとは、何ですか! 姉様は何も御存知ないくせに!」と、食い下がります。


「伯父上の悪行三昧なら、知っておるわ!」と、初。


すると江は、「ほとんどは心無い者どもが流した噂です。伯父上を妬む輩は、多いのです!」と、返す。


初はぷいと横を向いて、縁側へ。そして言いました。

「あ~あ、そうやって、みな信長に騙されるのじゃな!」


「伯父上を呼び捨てにするとは、何事ですか!」と、江。


「やかましい!」と、初は返しました。

「身内に信長びいきがおるなど、たまったものではないわ!」


「伯父上も身内ではありませんか!」、江が喰ってかかります。


「うるさ~~い!」と、怪物くん 初。


江もうるさいと言って、姉の頬を引っ張ります。

初も同じく江の頬を引っ張り、子供の喧嘩に。


乳母たちがふたりを引き離しますが、それでも終わらず、ふたりはまた激突。

巻き添えを食った乳母たちの方でも、喧嘩がはじまってしまいました。


茶々(宮沢りえ)が やめよと言っても、ふたりは喧嘩を止めません。

と、それを止めたのは、母・お市の一声。


「静まれ!」

一喝してから、市は言いました。

「見よ、月が美しいぞ」



同じ月の下ですが、こちらは安土城。

織田家と徳川家の間に、問題が生じていました。


織田信長(豊川悦司)は、娘である徳姫を、徳川家康(北大路欣也)の嫡男である信康(木村彰吾)に嫁がせている。

ところが、その徳姫より、十二箇条の手紙が、信長に届けられたのです。

そこには、信康と不仲であること、そして、家康の正室である築山殿(麻乃佳世)が、武田勝頼と内通したと記されていました。

信康と築山殿に、謀反の疑いあり。


使者としてその手紙を運んだのが、徳川家の重臣・酒井忠次。

信長は忠次に、真偽を問いただしました。

しかし、忠次は、弁明しない。


こうなっては、信長も何らかの裁定を下すしかありません。

最終的に、「家康に命じよ、築山を殺し、信康には切腹を申し付けよと」との沙汰が。



その旨の書状を受け取る、家康。

確かに、信長の署名と、天下布武の印が記されています。

言葉を失う家康ですが、決断せねばなりません。


結果、築山殿は斬られ、信康も切腹。

家康は、苦渋の中、その命令を下したのです。


そしてそれが、江らの耳にも入ります。


初は、案の定だと言いました。

「伯父上はおやさしいなどと江は言うておったが、とんでもない」

「誰であろうと見境なく殺す、それが江の大好きな、織田信長という人間なのじゃ」



が、江には納得がいきません。

なぜ、こんなことに。


夕餉(ゆうげ)の折、江は母に、この件についてどう思うか、訊いてみました。

「伯父上はなぜ、家康さまに、あのようなことを?」


信康の噂は、お市の耳にも聞こえていました。

英傑の誉れ高く、その器量の大きさは、織田家を継ぐといわれる信忠をも超えるという評判も。

「将来、徳川が織田を滅ぼすやもしれん、兄上様は、そんな憂いを取り除いておきたかったのやもしれぬな」と、お市は言います。


けれど、江には、合点がいかない。

「伯父上は、そんな小さな御方でしょうか?」と。


お市はさらに言いました。

「もしくは、徳川さまを試した、とも考えられる」

「兄上様にどこまで忠節を尽くすか、どこまでの無理を聞き入れるのか…」

「かつて、わたくしに裏切られたことも、ある故なあ」



江は母に、伯父上に直に御聞きしたいと、願いました。

直接気持ちを確かめたい。


当然、茶々たちは反対します。

ならばと、江は、文を出すだけでもと。


「それほどまでに知りたいのか」と、お市。

申し訳ございませんと下を向く江に、謝ることはないと微笑みます。

「そなたの心は、そなたのものじゃ」


江の顔が、ぱっと輝きました。

「伯父上も以前、そのようなことを仰せでした」

「ありがとうございます」




蝋燭の下、さっそく手紙をしたためる、江。

乳母のヨシ(宮地雅子)が、「そろそろ御休みになりませんと」と言っても聞きません。

顔も上げず、「書き終わるまでは寝ぬ」と、筆を置かない。


とはいえ、相手は天下人。

一向に、返事は来ません。


年が明けて、天正8年(1580年)。

江はあきらめず、手紙を出し続けました。


それを見て初は、御菓子袋片手に、「江は、あきらめが悪いのう。返事など、待つだけ無駄じゃ」と。

(うる星やつらの「辛いキャンプに明日はない」の諸星あたるかよって言っても、分かりにくいよ!)

それに対し、茶々は、「待つのは江の勝手じゃ」と、温かく見守ります。



そんな中、明智光秀(市村正親)が、上野城を訪れます。

信長のことが気になる江は、光秀が母や伯父・信包(小林隆)と話しているのを、立ち聞き。

それをお市に、咎められる。


思い切って、江は光秀に訊いてみました。

「明智さまは、どう思われますか? 伯父上の、徳川さまへのやり様が、わたくしにはどうしても分からないのです」


「おやかた様の御真意は、誰にも分かりません」と、光秀は答えました。

そして、「ただ、徳川さまは、たいそう苦しんでおられたように、ございます」と。


お市は、今度のことで家来衆の心が離れるようなことは、と心配します。

これに光秀は、「おやかた様との御縁、そのようなことで切れることはございません」と断言。

が、信包に、明智殿も? と問われると、微妙な間が。

「それはもちろんでございます」

そう答えましたが、一瞬の空白が、少し気になりました。



しばらくして、江に吉報が。

信長から、手紙が届いたのです。


“申したきことあらば、直々参るべく候”


喜ぶ、江。

ひとりで行かせるのは心配だと茶々らは言いましたが、お市は必死に願う江を見て、「行ってくるがよい」と。

「ただし、帰ったら兄上様の御話しなさったこと、余さず伝えよ」と、約束させて。


お市にはひとつ、考えがありました。

江であれば、兄上様の真の御心、聞き出せるやもしれぬ。



再び安土の地に入った、江。

出迎えてくれた坊丸(染谷将太)と力丸(阪本奨悟)に、さっそく問いかけます。

「徳川さまの件ですが、伯父上はなぜ、あれほどの厳しい沙汰を下されたのでしょう?」


「その件でしたら、我らに御答えできることはございませぬ」と、坊丸。

「おやかた様のおやりになることに、疑いは挟めぬのです」と、力丸も言います。

坊丸は姿勢を崩さず、言いました。

「誠心誠意御仕えするとは、そうしたことですゆえ」



部屋で信長を待つ、江。

屏風に、奇妙な画が描かれている。

山と川、いや、海だろうかと、江は覗き込みます。

この時代、世界地図を知る日本人は、ほとんどいない。


「ようまいった」と、信長の声が。

振り向いた江は、目を丸くしました。

伯父上が、見たこともない奇妙な着物を着ている。


「どうじゃ」と、少し誇らしげに、信長は洋服(南蛮服)を見せました。

ぴったりした黒い上着は、襟が立っていて、中から白いものが見えている。下に履いているものは、膝の下くらいまではふっくらと膨らんでいて、膝から下は見たこともない履物をはいていました。足袋にしては薄く、上に長い。

ともかく、上から下まで、見たこともない物だらけ。


江は、「何というか――すごいです」と言うしかありませんでした。


その反応を見て、信長はちょっとうれしそう。

「そうか、すごいか」


近寄ると、上着の真ん中に、小さな装飾が並んでいました。

触ると、硬い。


「南蛮人に作らせたのよ」と、信長が教えてくれました。

江が、わたしも着てみとうございます、と言うと、「では、女物も作らせるか」と、満足気に笑う。



「キリシタンの教えを伝えんがために、南蛮人共が日本の土を踏んでからすべてが変わった」と、信長は江に話して聞かせます。「江には、それが分かるか?」


「異国と付き合っていかねばならない、ということでしょうか?」と、江。


「うむ。ただし、その前に日本の中で、人と物、金が、自在に動く仕組みを作っておかねばならん」

信長は地球儀を前に、そう話します。

「さもなくば、異国との対等な交易は叶わず、果ては我が国を乗っ取られることにもなりかねん」

「それ故わしは、天下統一を急ぐ」



は~っと、江は大きな息をつきました。

「伯父上は、これまでになかったことを、考えておいでなのですね」


「誰かがやらねば、日本は滅びる」

「わしに分かるのは、それだけじゃ」


そう言って、信長は笑った…





NHK大河ドラマ歴史ハンドブック 江(ごう) 姫たちの戦国 (NHKシリーズ)



織田信長の経営塾





ついて参れと、信長は、江をある者に引き合わせました。

キリシタンのパードレ(伴天連、宣教師)で、名をルイス・フロイス(オジエル・ノザキ)という。

(ちなみに、「ふろいす」を変換すると「風呂イス」となって、ちょっとHな感じになります)


御会いできて光栄です、と日本語で話し、手の甲に接吻する、フロイス。

(顔がちょっと、潮哲也さん森次晃嗣さんに似てる?)


奇妙な丸い机の前に座らされ、江は、きょろきょろ。

何だ、この台は。座るものなの?


フロイスが異国の言葉で話すと、通詞が訳す前に、信長が「城を褒めておるようじゃ」と、江に教えてくれました。

信長は、直接、フロイスと異国の言葉で話している。

何を話しているか分からない江ですが、伯父上がすごいことだけは伝わります。



機嫌よくフロイスと話していた信長ですが、彼が帰ると光秀を呼び止め、いきなり殴りました。

「しょぼくれた面を晒しおって!」と、怒る。

平謝りする光秀を、「この、金柑頭がっ!」と罵倒しました。


信長の後を追いかけ、江は訊ねます。

「なぜ、あのような。明智さまに、何の落ち度があったというのですか?」


「あ奴は一度も、フロイスの顔を見ようとはしなかった」と、信長は言います。

「この城に伴天連を入れるのが不満なのよ」


「でも、何を思うかなど、人それぞれではありませんか」


江の言葉に、信長は足を止めました。

「なら、なぜそれを、わしに言わん?」


「それは、伯父上の御力を、怖れておいでなのでしょう」と、江。


信長は、江に言いました。

「それは、己を持たぬということじゃ」

「そのような者に、よい働きはできん」




信長は、また別の人物に、江を会わせました。

千宗易(石坂浩二)、後に千利休の名で知られる人です。


「御挨拶代わりに、一服あがられませ」

宗易は、穏やかな笑顔で、江を迎える。


「宗易は堺で、いや、日本で随一の茶人である」と、信長は言います。


と、宗易は、「異人さんが紛れておられますな」と、茶を点てながら言いました。

「織田さまにへばり付いておいでですね」と。

南蛮の服の残り香のことを、言っているのです。

「茶にはどうにも合いまへんな、南蛮のにおいは」


「あの者たちは、我らとは異なる香を使う。しかたあるまい」

そう信長が言うと、宗易は、

「ま、姫様に免じて、今日の所は」と。

その上で、「次からは、堪忍してほしいもんですわ」と釘を刺します。


穏やかな顔をして、宗易は随分遠慮のない物言いをする。

また、信長の方も、それを嫌がってはいないようです。


出された茶を口に含む、江。

「おいしい」と、自然と笑顔がこぼれました。


それを受けて、宗易にも笑顔が。

「よろしいなあ。その御顔こそ、何よりにございます」


信長は、江の茶碗を覗き込みます。

そして、「わしには点ててくれんのか?」と。


すると、宗易の眉間に、皺が。

「急かれる御癖は、ちょっとも治りませんなあ」


「そうか、わしはせっかちか?」

そう言って信長は、愉快そうな顔を。

声を上げて、笑う。



いろんな顔を見せる、信長。

江には、どれが本当の信長なのか、分かりません。


廊下で、江は訊きました。

「なぜですか? なぜ、宗易さまに対しては、あのように寛容であられるのですか?」


「あの者たちは、我ら武士とは別の生き物よ」と、信長は言います。

「美しきものを作り、磨き、極める。そのためだけに生まれてきた者たちじゃ」


「それ故、無礼も赦すと?」


江の問いに、信長は答えます。

「とりわけ宗易は、一流の人物じゃ。あの者の生み出す美の前では、刀も鉄砲も、役には立たん」


分かったような、分からぬよな。

江はただ、はぁ、と言うしかありませんでした。



こうして、江と信長の1日は終わりました。

楽しくはあったけれど、肝心の目的が果たされていません。


江は乳母のヨシに、この度のことをどう思うか訊きます。

ヨシは声を潜め、女子の争い故かもしれぬと、と耳打ちを。

築山殿は、かつて桶狭間で信長と戦った、今川義元の姪にあたります。

信長の娘が嫁とあっては、気が合わないのも当然ではないかというのです。

煙たい姑を何とかしてくれと、徳姫が父・信長に頼んだとしたら。


「伯父上は、そんな御器量の小さな御方ではない!」と、江は思わず叫んでしまいました。


しかし、ますます、真相は分からなくなりました。

それに、家康は江の前で、信康の嫁と姑がそりが合わないと言っていた。

ということは、女子の争いというのも、無きにしも非ず?


江には、何が何やら、分からない。

考えだけが巡って、嫌な想像までしてしまいます。

そして、本当のことは、分からずじまい。



その頃、茶々や初は、江のことを心配していました。

今頃、何をしているやら。


それを見守るお市は、「江は、兄上に父を見てるやもしれぬな」と。

「父の顔を知らぬ江にとって、兄上は別格の御方なのであろう」と、話します。



翌日、「今日こそ伯父上に、問いたださねば」と、江は張り切ります。

さっそく信長のもとを訪れ切り出そうとしますが、先に話されてしまいました。


「今日は、わしの最も贔屓(ひいき)の女子を呼んでおいたぞ」

そう言って紹介されたのは、おね(大竹しのぶ)。

羽柴秀吉(岸谷五朗)の妻です。


丁寧に頭を下げる、おね。浅井長政の件について、詫びました。

「乱世の習いとは申せ、我が夫・秀吉は、お市さまと姫さま方に、誠に申し訳ないことをいたしました。御許し下さいませ」


「そちに詫びると言うて、聞かんのじゃ」と、信長。

「時におね、サルめは、あのハゲネズミは、如何しておる?」


「相変わらずにございましょう」と、おねは答えます。


その頃、秀吉はというと、城を囲うのは飽きたわい、と寝っころがったかと思えば、女子を囲うのは飽きぬわい、と両手に若い娘たちをはべらす。


信長は、おねに言いました。

「そちの扱いが粗略な時は、いつでもわしに言うてまいれ」


「ありがとう存じます」と、おねは頭を下げます。


「女子同士、しばしゆるりと過ごすがよい」

そう言い置いて、信長は下がりました。


江はまた、肝心のことを聞けずじまい。

とほほ…



伯父上が駄目ならと、江は、おねに訊いてみます。

おね自身がどう思うかではなく、伯父上がどう考えているか御存知ではありませんか? と。


一瞬、きょとんとした顔をした おねですが、「ひょっとして、それを御知りになりたくて、わざわざ安土に?」と。

江がはいと答え、まだ何も聞けていないと漏らすと、おねはふくよかな頬に、やさしい笑みを浮かべました。

「おやかた様の、仰せられた通り」

「御詫びしたいのもありましたが、実はたいそう面白い姫さまだと聞き、御会いしとうございました」


そう言った上で、おねは信長について、こう言う。

「おやかた様は、おやさしい方です。徳川さまにはたいへん御気の毒ですが、何か想いがおありになってのことなのでしょう」


「わたしは、その想いが知りたいのです」と、江。


おねは言いました。

「申し訳ありません。わたくしは、物事を突き詰めて考えぬ性質(たち)でございまして」


すると、江は、「それであのサル殿と御一緒に?」と言ってしまいますが、失礼だと気づいて、「すみません。秀吉殿と」と訂正しました。


「あれとは、わたくしが惚れて、夫婦になったのです」

おねは、そう答えました。


惚れた? あの草履の裏みたいな人と? と、江は口に出してしまいます。

「いったい、どこが? どこがよくて?」

マニア? マニアなのですか? ゾウリムシとか、ミジンコとか。ああ、坂田明殿と同じ趣味なのですね。


「訳は、ありません」と、おねは言いました。

「好きになるのに、理由などありはしません」

「わたくしは、秀吉に惚れました。共に生き、喜び、泣き、笑いたいと、心から願ったのです」



おねはそう言って笑いましたが、江にはよく分からない。

安土に来て以来、分からないことだらけです。



今度は船に乗せられ、琵琶の海へ。

風景は綺麗なのですが、初めての経験なのか、江は船酔いに。

森蘭丸(瀬戸康史)が気遣い、背中をさすってくれました。


「おねは、どうであった?」と、信長。

白い南蛮服を着ている。


「よき御方にございました」

江がそう答えると、信長は、「そうか」と。


江は、訊いてみました。

「あの方にわたくしを会わせたのは、どうしてですか? 過ぎたことにはこだわるなと、仰せになりたいのでしょうか?」


「わしが面白いと思った人間に、そちを会わせてみたかったのよ」

そう言って、信長は笑います。

宗易やフロイスについても、そうだと。

「どうであった、あの者たちは?」


今聞かなければ、と、江は信長の前に座ります。

「それより、わたくしは、伯父上に御伺いしたきことがございます」


「築山と信康の一件か?」と、信長。

「そちがあちこち訊き回っておることは、知っておるわ」


「では、御訊ねします。なぜ、あのような酷いことを、なさったのですか?」


少し間をおいてから、信長は言いました。

「分からん」


分からない?

そんなことを言われた江の方が、何が何やら、分かりません。

頭の上に花が咲きそうです。


「あの場合、あれがわしの出した答えじゃ。それを家康に命じたまでのこと」

信長は、そう言います。


「では、徳川さまを、試されたのでございますか?」と、江。

「母上が言っておられたのです。徳川さまがどこまで伯父上に誠実かを、試されたのではないかと」


船は竹生島に近づき、その話はいったん置かれます。


“緑樹影沈んで 魚木に登る景色あり。
 月海上に浮かんでハ 兎も波を奔るか 面白の浦の 景色や”

“月も日も 波間に浮かぶ 竹生島
 船に宝を 積む心地して”




ふたりは、宝厳寺へ。

「この島の弁財天を、浅井家は篤く信心しておった」と、信長が説明してくれました。

江の父・浅井長政も、ここに参拝したであろうと。


本堂には、白い御顔の大弁財天が。

江は、何か惹かれるような、縁のようなものを感じます。

そっと手を合わせました。

信長はその傍らで、弁財天をじっと見つめている。



石段の途中で、信長は対岸を指さしました。

「あれに見えるが、小谷山じゃ。そちの父の城があったところよ」


小谷に向かって、江は手を合わせます。

「わたくしは、父の顔を知りません。ですから、何を縁(よすが)にすればよいか分からぬ時がございます」


「縁、のう…」と、信長。


「わしは、実の弟に、殺されかけたことがある」

信長は石段に腰掛け、話しはじめました。

「わしには兄弟姉妹が22人おるが、母を同じゅうする弟は、ただひとりであった。その弟に、裏切られたのじゃ」

「(その時、母は)弟を赦してやれと、わしに泣きついた」

「生まれてすぐに母と引き離されたわしと違い、弟は母に溺愛されて育った故な」

「数年後、弟は再び、謀反を企てた。母もそれに、組した」


信長は、江の方を見て、言いました。

「わしは、弟を殺した」

「肉親とて、しょせんはそのようなものじゃ」



「では、そのせいで、伯父上は人を信じ切ることができなくなってしまわれたのですか?」

江は、思った通りを、口にしました。


「言うたはずじゃ」と、信長。

「わしは己しか信じぬ者である」


立ち上がった信長は、江に手を差し出しました。

江は、それを握る。


人間の温かみがしました。

血の通った人間が、目の前にいる。

人は、遠くから眺めるとき、その温かみを知らない。

でも、こうして手を握れば、誰にでも感じられる。


ゆっくりと石段を降りながら、信長は話します。

「そちはさきほど、わしが家康を試しているのかと聞いた」

「では、サルめは、どうじゃ?」

「秀吉に、おねを殺せと命じたら?」

「奴には、殺せん。わしにすがりつき赦しを請うか、己が死のうとするであろうな」



「それはいかなる意味でございますか?」と、江は訊きます。

「秀吉殿の方が徳川さまより、人として上だとおっしゃりたいのでしょうか?」


「意味はない」と、信長はきっぱり言います。

「ただ、どうにかしたいことがあったら、人は何とかするものよ

「そちも、安土に来た。自分の知りたいことを、知るためにな」


「では、徳川さまも、自ら決められたと?」

江は、下から伯父の顔を覗き込みます。


「無論じゃ」

「あの男は、阿呆ではない」



「よく分かりません」と、江は言いました。


信長は言います。

「ただひとつ言えることは、妻の代わりに死ねるサルを、わしが手放すことはない」

「また、わしの命で妻と子まで殺した家康を、断じて裏切ることはない」



「分かりません」と、江。

「分かりません」



江は、宗易を訪ねました。

事情を話して、信長が語ったことの意味を教えてもらおうとします。


「その茶碗はわたくし好みでしてな、何でやろう思うても、訳が分かりまへん」

そう話す、宗易。

「いがんで不細工やのに、惹かれて、心がざわついて堪らんのですわ」


いがんでブサイクなものに惹かれる、おねさまと同じですね!


「何より大事なんは、好きか、好きと違うんか、そういうことではありまへんかな」

「そんだけ気になるいうことは、姫様は織田さまが御好きなんや」

「違いますか?」



「好きです」と、江は答えました。

それだけは、分かる。


宗易は、笑いながら言う。

「それやったら、それだけでよろしいのちがいますやろか」


「でも、わたしは知りたい」と、江は言います。

「伯父上をもっと深く知りたいのです」


「人間いうもんは、力を持てば持つほど、独りになります」

そう話す、宗易。

「天辺に立たされる者の孤独は、凄まじいもんやと思いますわ」

「そして、あの御方は、格別な御方。他の誰にも、見えへんもんが見える。誰にも聞こえへん声が聞こえる。それが、織田信長いう御人や」

「それと、あんたさんは傲慢や」


そう言って、宗易はおかしそうに笑いました。

「何でもかんでも、知りたい、知れば分かることができる、そう考えるのは姫様の我ぁや。我がまま、思い上がり、つまり、傲慢ですわ」


傲慢…

幼い江は、その言葉を噛みしめます。

でも、まだうまく呑み込めない。



我がまま、思い上がり、傲慢…


伯父上は目を閉じ、敦盛の一節を舞っている。

“人間五十年 化天のうちを比ぶれば 夢幻のごとくなり”


この人は、何を見ているのだろう?

何を聞いているのだろう?


江が孤独の意味を知るのは、まだ先の話…





信長の戦争 『信長公記』に見る戦国軍事学 (講談社学術文庫)



完訳フロイス日本史〈1〉将軍義輝の最期および自由都市堺―織田信長篇(1) (中公文庫)
完訳フロイス日本史〈1〉将軍義輝の最期および自由都市堺―織田信長篇(1) (中公文庫)





<感想>


いろんなものが見える信長にとって、見えない者は歯がゆいのかもしれない。

なぜ見えぬ、なぜ聞こえん、なぜ分からんと、言いたくなる。

突出した信長に並ぶ者は少なく、故に孤独。

同じ景色を見る者は、少ない。

同じ世界に生きても、ひとり。


故に、部分部分で自身と重なる者を見つけると、うれしいのかもしれません。

重ならなくても、どこかで突出しており、自分を持っている者を見ると、うれしくなる。





信長のことを知りたがる、江。

それは、好きだから?


何でも知ろうとする江を、宗易は傲慢だと笑いました。

何でも理解できると思うのは、思い上がりだとも。


確かに、その通り。

でも、行けるところまで行かないと、という面も。


知ろうとして、知ろうとして、それから、分からないことがあることを知る。

探さないで諦めることは、できない。

逆に、せっかくあるのに、探さないで諦めている場合も。


本人は気づいていないかもしれませんが、

江は信長の言うとおり、自分を生きはじめていました。

己を信じて、邁進していた…





孤独のチカラ



孤独―新訳





12分頃、江の頬が少しこけているように思えたけど、髪の毛の影かな?





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大河ドラマ「江~姫たちの戦国~」、第4話「本能寺へ」より――




江(ごう) 姫たちの戦国 前編 (NHK大河ドラマ・ストーリー)




お市(鈴木保奈美)から香道を学ぶ、茶々(宮沢りえ)、初(水川あさみ)、江(上野樹里)。

江はこの時、9歳。

ちょっと大きいけれど、9歳。


お市は娘たちに、まずは己が好みの香りを見つけることじゃと、説きました。

茶々が選んだのは、“浮島”(うきしま)。

姉妹らの父・浅井長政(時任三郎)が好んだ香りだといいます。

それを知り目を細める、茶々。

初も、父上を思い出すと、喜びます。

父の記憶がない江は、これが父の香りかと思う。


初が選んだのは、“空蝉”(うつせみ)。

源氏物語に登場する女人の名前から来ています。


さて、江ですが、思うような香りが見つかりません。

それをもって初に、「無理もない、雅なる香の心、がさつなそなたに分かるはずはないわ」と言われてしまいます。

もっとも、くしゃみで香を吹き飛ばしてしまったので、反論できない部分も。



お市らは、信包(小林隆)より、信長が馬揃え(うまぞろえ)を催すと聞かされました。

もともとの馬揃えは、軍馬を集め優劣を競わせたり、検分したりするもの。あるいは、演習で士気を鼓舞したり、敵を威圧したりもする。

が、今回のものは、違うといいます。

此度諸将が競うのは、行列の壮麗さ、装束飾りの絢爛さ。それ故、信長から、各々能う限りの贅を尽くすべし、と御達しが出されました。

その馬揃えに、お市と三姉妹も招かれたのです。

信長直々に、必ず連れてまいれとの仰せ。


うれしい! と、今にも飛び上がりそうな、江。

その横では、茶々と初が微妙な顔を。



馬揃えの準備を任されたのが、明智光秀(市村正親)。

光秀は信長(豊川悦司)より、帝にも御上覧いただくと聞かされます。


「とんでもないことにございまする!」と、珍しく大きな声を出す、光秀。

馬揃えを御上にも御楽しみいただきたいという御気持ちは分かりますが。

そう言いかけた光秀に、信長は、そうではないと。

帝御自身が馬揃えを御見物あそばされる、そこが肝心だと言います。


その言葉に、光秀は戦慄しました。

「恐れながら、おやかた様はもはや、御上をも思うがままに動かすと?」


が、信長は平気な顔をして、「未だわしに服属せぬ諸大名も、さぞや恐れ戦くであろう」と言います。


去ろうとする信長を前に、両手をつき、光秀は解任を要求しました。

「そういうことでありますれば、この光秀、奉行の職から御外し願いとうございます!」


それに対し信長は、ならん! と一喝。

「馬揃えには、南蛮人も呼ぶ。古きものを尊び、異国風を嫌う御主が、いかなる手際を見せるか、今から楽しみにしておるわ」

そう言い残して、去りました。



播磨、姫路城。

中国攻めの最中の羽柴秀吉(岸谷五朗)は、馬揃えに参加できないことを嘆きます。

どうも、光秀が奉行を務めるのが気に入らないらしい。

「中途から織田家に加わった新参者に、出世争いの先を越されたようなものではないか!」などと言っています。

弟・秀長(袴田吉彦)や黒田官兵衛(柴俊夫)がなだめても、聞き入れません。

しまいには、こっそり京に出向いてやろうか、とまで言い出す始末。

このサル、いっそ殺してやろうか。官兵衛は、密かに思いました。



お市と三姉妹は、馬揃え見学のため京へ。

はじめての京を、江らは楽しみます。


と、一行は、光秀と出くわしました。

そして娘のたま(ミムラ)を紹介されます。

たま は、細川忠興に嫁いでいる。

後に洗礼名から、細川ガラシャと呼ばれる人。


光秀が疲れているように見えて気になる、お市。

たまは馬揃えの準備のためだと言いますが…。



天正9年(1581年)2月、馬揃えが開催されました。

一説によれば、京に20万もの人が詰めかけたという。


まず現れたのは、丹羽長秀の一行。

信長が命じた通り、金の飾りをつけるなど、贅を尽くしている。

3番目には、光秀の手勢が。

きらびやかな着物に身を包み、りりしい顔つきで、馬を進めます。

観覧する公家たちも、喜んでいる。


信忠(谷田歩)、信雄(山崎裕太)、信包、信孝(金井勇太)ら織田家一門も姿を見せ、公家衆、馬廻小姓衆に続き、越前衆が。

その先頭を、柴田勝家(大地康雄)が行きます。


そして、最後尾には、信長が。

まず、馬に乗って現れた信長。

黄金色の唐冠の頭巾を被り、左右で模様の違う着物を。

衿には、梅の枝を刺しています。

腰には、造花の牡丹まで。

見事な傾奇ぶり。

一行の中には、アフリカ出身の弥助の姿も。


やがて信長は馬を降りると、朱塗りの神輿の上へ。

その上で、声を上げる。

「みなみな、時は春である! 我が春! 信長が春である! そして、世の春! みなみなの春である!」


世の春、みなみなの春。

市はその意味を、解しかねました。


「喜ぶがよい!」と、信長は続けます。

「寿ぐ(ことほぐ)がよい!」

「酔いしれるがよいぞ!」



信長が神輿の上で槍を舞うと、場は唸るような歓声に包まれました。

人心をつかんだ。

江はもちろん、茶々も初も、目を見張ります。

信長登場時には静まり返っていた観衆も、今は沸きに沸く。

世への訴えは、十分に成功しました。





NHK大河ドラマ歴史ハンドブック 江(ごう) 姫たちの戦国 (NHKシリーズ)





その夜、江は招かれて、本能寺へ。

待たされている間に、珍しい椅子が気になって腰掛けていると、信長が現れました。

おちゃめな江は、9歳。

(Google 画像検索で「9歳」にリンクを張ろうかと思いましたが、いろいろ出てきたので、やめます)


慌てた江は、つまづいて、信長の腕の中に。

元気な様子の姪を見て、信長は目を細めます。


部屋を見て信長は、「市たちは来ぬか」と。


母や姉たちは疲れたからと言って、と江は説明します。

「でも、伯父上に会いたくないとか、決してそういうわけでは…


「そういうことか」と笑う、信長。



信長は、香を焚いてみせました。

そうしながら、馬揃えの感想を訊きます。


「身が震えるほど素晴らしゅうございました」と、江。


江は、香に興味を示しました。

これは“東大寺”というのだと、信長が教えてくれる。

江は目を閉じ、ゆっくりと東大寺の香りを体に入れます。


「これです」と、江。

「これです、わたしの香りは」

「母上に言われたのです。香を学びたければ、まずは好きな香りを見つけよと」



「そうか、この香りがのう」と、信長。

しばらく香炉を眺めた後、言いました。

「そちはやはり、面白き女子よのう」

そして、何やら、差し出します。


開けてみると、そこには南蛮の服が。

信長は、約束を覚えていたのです。


「ありがとうございます」

喜ぶ江を見て、信長もうれしそう。


信長は立ち上がると、部屋を歩きながら、こんな話を。

「江は存じておるか、伴天連の伝えよるデウスなるものを」

「天にあって宇宙を司るもの、万物の作り主にして、全知全能の神だそうじゃ」

「笑わせおる」



「でも、神様はどこかにいらっしゃるかもしれません」と、江。


が、「おりはせぬ」と、信長はすぐに打ち消しました。

「わしはあらゆる神仏を拒まん。なぜか分かるか?」


江は、「人にはそれぞれ、信じるものがあるから?」と。


違うと、信長は言います。

「神仏の教えとは、しょせん人間が作りしもの。どれもこれも、妄想、迷信、絵空事に過ぎぬからじゃ」

「真なる神があるとすれば、それは、この織田信長をおいて他にはない」

「京の馬揃えも、わしが神たるものに昇りつめた証しのひとつじゃ」

「知っておるか、安土に見寺(そうけんじ)という寺がある。いずれはあの寺を、わしを崇め奉らせる場とする。拝むに値するものは、わし以外にはおらん」



悲しげな顔をする、江。

やがて立ち上がり、言いました。

「神も仏も信じぬという伯父上が、今度は御自分が神だと言われる。そんなの、おかしいと思います」

「人は、己の望むままに、神になぞなれません」

「どんなに伯父上が御偉くても、それだけは無理にございます!」



そう訴える江を、信長は厳しい顔で見下ろします。

「わしに向かって、言いたいことを言いよる」


「申します」と、江。

「畏れ多いという御心が、伯父上にはないのですか?」

「己を信じることと、己が神になることは、違うと思います!」



厳しさの中に、さみしげな影がさす。

信長はただ、「こやつめ…」と。

「思うたままを、口にしおって…」


「だってそれが、伯父上の教えではありませんか…」

いつしか江の目には、涙が。


「そうであったな」と、信長。

「その言葉に偽りはない」と、小さく笑います。

「己を信じて、思うままを話し、思うまま生きればよい」


はい…と返事をする、江。


信長は江の前に進み出て、じっと目を見て、言いました。

「己の信じる道を行け、江」

「思うておるより、時は早い。人生は、短いぞ」



笑みを浮かべてから、信長は去りました。

江は、その背中を見送る…





考証 織田信長事典





事の顛末を、江は市に話しました。

そして、「己を神になぞらえるなぞ、わたしは嫌にございます」と。


市は江が手にしている物に気づきました。

訊くと、信長がくれた香木だという。

その香木の名を聞いて、お市は肝を潰します。

“東大寺”

それは蘭奢待(らんじゃたい)というもの。遠く奈良の都の昔、唐の国から伝来した大きな伽羅の香木で、東大寺正倉院秘蔵の名香だといいます。

それを数年前に信長が、こともあろうに自らの手で切り取った。

そんな貴重なものを、9歳の江に。


「伯父上に もはや、怖いものは何もないのですね」と、江は漏らしました。



その後も、織田の軍勢は留まるところを知らず、進軍してゆく。

明けて天正10年(1582年)3月には、織田・徳川の連合軍に追われ、武田勝頼(久松信美)が自害。

信長を悩ませ続けてきた名門武田は滅びました。

宿願の天下統一は、目前に。



武田征伐の戦勝祝いが、開かれました。

貢献した徳川家康(北大路欣也)の姿もある。


信忠らに労いの言葉がかけられる中、光秀が信長の怒りを買います。

「我らも骨を折って御奉公した甲斐があったというものにございます」

そう言う光秀に、信長は、「どこで骨を折った?」と。

どこで武功を立てたというのか! と家臣たちの前で叱責し、欄に顔を押し付けます


御許し下さいませと請う、光秀。

構わず力を込める、信長。

家臣とはいえ、みなみなの前で、踏みつけるかのように叱り飛ばす。

間に家康が入り、何とか場は収まりました。


信長が去った後も、光秀の右拳の震えが止まりません。

それは、恐怖によるものか、それとも、今まで抑え込んでいたものが、噴出しようとしているのか。

光秀は、必死に震えを止めようとしました。



武田家滅亡の報せは、伊勢・上野城にも。

そして、市と江が呼ばれました。

安土への凱旋の途中、尾張の清洲城に立ち寄る故、そこにまいれと。


が、江は、「わたしは行きません」と。

「伯父上はもう、わたしの好きな伯父上ではありません」

「神様にでも、仏様にでも、勝手になればよいのです!」


そう宣言しました。



清洲城で市を迎える、信長。

江が来ないと聞いて、さみしがります。

そして市も、これを御届けにまいっただけにございますと、相変わらずつれない。

市が差し出したのは、香木の東大寺。


「それはそちにではなく江にやったものじゃ。要らぬなら捨てよ、と伝えるがよい」

信長は、そう言いました。

そして、用件を話しはじめます。

わしのもとに戻る気はないか、と。

娘たちを養女にしたいというのです。

茶々は、ゆくゆくは帝の妃にしたいと、信長は話します。

帝は御高齢。誠仁親王様に御譲位なさりたい御心。その親王様の皇子に、茶々を娶らせたいと。


「御待ちください」

そんなお市の言葉も聞かず、信長は続けます。


初は大名家に嫁がせる。

江は、しばらく手元に置くつもりだと。

用件を言うだけ言って、信長は下がろうとしました。


その背中に向けて、お市は、

「帝の妃に立てるとは、また畏れ多いことを」と。


「畏れ多いのう。江も同じことを言うておったわ」と、信長。

「わしは神ではないとな」


兄の背中に目を向けず、厳しい表情で空を見たまま、お市は言います。

「兄上様は、神ではございませぬ。神ならぬ人の身。そこまで昇り詰めたら…」


「昇り詰めたら?」と、信長は背中を向けたままで訊く?


そこで市は、視線を兄の背中に向けました。

「あとは、落ちるだけにございましょう」


信長は苦い笑いを口元に浮かべ、「言いにくいことを言いよる」と。


市はゆっくりと立ち上がりました。

「先ほどの茶々のことですが、御断り申し上げます」

「娘たちも、わたくしも、兄上様の道具にされるのは、断じて御免こうむりとうございます」



そこでやっと、信長は振り返りました。

そして、「わしではなく、天下泰平のためだとしてもか?」と。


天下泰平のため?

さるとびエッちゃんの?)


「そちは、わしが昇り詰めたと言うたな? (だが)まだそうは言えぬ。揺るぎない泰平の世を築いた時に初めて、己が昇り詰めたと安堵できるのであろう」


兄の言うことが、まだ市にはうまく呑み込めません。

「兄上様が、戦がない世が御望みだとでも?」


「それがため、今まで戦いに戦いを重ねてきたのじゃ」と、信長は言います。


「けれども、そのため、何万何十万の者が、命を落としてまいりました。我が夫、長政も」


「世の中が大きく変わる時には、多くの血が流されるものじゃ」と、信長。


「それは都合のよい理屈にございます」と、市は小さく首を振ります。


が、信長は、「そのようなことは、どうでもよい」と。

「誰かがやらねばならなかった」

「そしてわしが、それをやったまでのことよ」



なぜ、と、お市。

「なぜ、兄上様だったのですか?」


「さあな…」

「ただ、憎まれ怖れられる者は、ひとりでよい」

「しかる後、泰平の世が来れば、それでよい」



「泰平の世…」

「それが、世の春、みなみなの春でございますか?」



信長は話します。

「日本をひとつに束ねるには、帝の威光が欠かせん。しかし今や、それは衰えかけておる。我が姪たる茶々が嫁げば、わしに向けられた憎しみと恐怖はそのまま、帝を畏れ敬う想いへと変じるであろう」


「兄上様は、そこまでのことを…」


「今一度、問う」、と信長。

「娘を連れて、わしの傍に来ぬか?」


「わたくしも今一度、申します」と、お市。

「わたくしは、兄上様の道具でも、人形でもございませぬ」

「ただ、己自身でしかと定めた後、御傍に、戻りたいと思います」



喜びを口元に浮かべる、信長。

真意が、通じた。


信長は懐から何か取り出しました。

「乱世はもうすぐ終わる。これも無用になるということじゃ」

そう言ってお市に投げたのは、天下布武の印。

「天下布武とは、武力で世を統一する意味にあらず。公家、寺家、武家とある中で、武家こそが要となり、天下をまとめようとするものじゃ」

「それが叶えば、役目は終わる」



「ならば、新しい印判を作らねばなりませんねえ」と、市。

「次は、どのような言葉になさるのですか?」


「日本がひとつとなり、世が静まってから、考えるとしよう」

そう言って穏やかに笑う、信長。


市は兄に歩み寄り、言いました。

何と申しましょうか…。本日は、兄上様と初めて、心が通い合うたような気がいたします」


「そちは思い通りにはならん」と、信長。

「わしには何も変わらぬがな」と、小さく笑います。


本音を語り、心が通じ合った、兄妹。

が、しかし、これが直に会う、最後の時となりました。



城に帰ったお市を前に、江は心情を。

「あれからずっと、悔んでおりました。わたしは伯父上に、ひどいことを申しました。好き勝手言ったのは、わたしの方でした」

「母上と御一緒すればよかった」



娘の話を黙って聞いた後、お市は「これも、わたくしにくだされた」と、天下布武の印を。

「兄上様は、申された。『天下布武とは、武力で世を統一する意味にあらず』」

「わたくしはこれまで、兄上様に心をゆるせずにおった。そなたの父の命を奪われたことでな」

「でも、兄上様が、己が身を犠牲にする覚悟を持って、天下泰平を願うておられることを知った、はじめてな」



「母上、わたしは、伯父上に会いたいです」と、江。

「もう一度御会いして、あやまりとうございます」



近江、安土城。

信長は光秀に、予定されていた四国討伐の総大将から外すと伝えます。

代わって三男の信孝を任ずると。


寝耳に水の、光秀。

今までの準備がふいになってしまいます。

奪われるかたちに。


理由を問う光秀を無視し、信長は次の命令を下そうとしました。

光秀がそれでも理由を問おうとすると、眼前に座り、「そちはいくつになる?」と凄む。

55だと光秀が答えると、「隠居してもよい歳じゃのう」と。


「それが訳なのでございましょうか?」

「それならばいっそ、それがしを、家中から御追放下さりませ!」


強い口調で言う光秀ですが、信長が、そうしてほしいのか? と問うと、「いや、それは…」と言葉を濁します。


「案ずるな、御主はまだ織田家には役立つ男よ」


「織田家には要り様でも、おやかた様には無用だと?」と、光秀。

だが、信長は何も答えない。

「御心を変えていただけるよう、尽くしまする! 誠心誠意、身を粉にして!」


が、その姿勢が、信長には気に入りません。

「その分別面が、鼻につくのじゃ!」と、激昂しました。


到底納得できない、光秀。

考え直してくださるようにと、必死に乞います。

が、「それほど仕事がほしいなら」と信長が命じたのは、秀吉の援護。配下に就けと。

総大将の任を解かれた上に、いわばライバル関係にあった秀吉の配下に。


光秀の右腕が、震えました。

必死に抑えているものが、漏れ出ようとする。

日頃から溜まりに溜まったものが、ついに噴出しようとします。

抑えれば抑えるほど、強く出ようとする。


頭の指令とは逆に、手の震えは止まりません。

これが、何を生むのか…





明智光秀 (人物叢書 新装版)



明智光秀~神に愛されなかった男~ [DVD]





<感想>


神を信じない信長。

それは、合理的だからか、それとも、神を信じるに足る経験がないからか。

あるいは、苛烈な人生の中で、神に乞う虚しさを知ったのか。

己を信じるということにしても、己を信じるしかなかったのかも。


怖いものが、何もない。

それは幸福なのか、不幸なのか。



合理主義者として知られる、信長。

天下泰平のために何が必要かを考え、その最短距離を走ろうとした。

が、最短を選んだが故に、血を厭わなかった面も。

己が血も、他者の血も、すべて被る。


血は流れない方がよいけれど、血を流さずに変容するかといえば、何とも言えない。

個人にしても、頭を抱えないと変容しない面もある。

変容するのは、苦しみ悩んだ末だったりする。

無理やりさせるのは違うけれど、避けられるのかというと、そうでもない。


そして、そんな時、居たたまれないのに耐え、毅然として立ち続けるのが、父性ともいえる。

悲しみを知った上で、それでも動かない。

変容するまでは、悪役にでも、なる。


ある意味では、信長は、その役割を受け容れたのかもしれません。

(ま、ドラマではありますが)


ただ、増長すると、足を踏み外すことも。

だから傍に、人が要るのか…





飛ぶ教室 (岩波少年文庫)



人についての思い込み〈1〉悪役の人は悪人? (心理学ジュニアライブラリ)





あるところに、非常に主人のことを想う存在が。

常に心にかけ、甘やかしたい気持ちも出るものの、それをぐっとこらえる。

その存在が詠んだ歌が、これ。


“好きやということは、ほんまに切ない。

トンカツがあれば、エッちゃんひとりに食べさせたい。

そやけど待ちいな、エッちゃんに、教えなあかんのや、あんあん。

我慢が大事の人生を。

ほなわて、いただきま”




あれ?



25分頃、角度によって、やっぱり頬がこけてみえるな。

あと、あの髪型、ちょうど影ができて、やせて見える効果があるかも。





<<「第3話 信長の秘密」「第5話 本能寺の変」>>





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大河ドラマ「江~姫たちの戦国~」、第5話「本能寺の変」より――




遅れてすみません。5話のレビューと感想です。




江(ごう) 姫たちの戦国 前編 (NHK大河ドラマ・ストーリー)




天正10年(1582年)、織田信長(豊川悦司)は ついに武田氏を滅ぼし、近畿から甲斐、信濃までをほぼ手中に収めました。

天下統一は間近です。

己を神だと言ってはばからない、信長。

江(上野樹里)はそんな伯父に、二度と会いたくないと、面会を拒否します。

が、母・市(鈴木保奈美)を通じて信長の本心と信念を知り、会わないと宣言したことを悔やんでいました。


憎まれ怖れられるのは、ひとりでよい。

泰平の世が来れば、それでよい。

信長は、未来を見ていたのです。


もう一度会いたいと願う、江。

しかし、運命の6月2日が、刻一刻と迫ろうとしている。



塞ぎ気味の江ですが、母に連れ出され、乗馬の訓練を。

この時、江は、数えで10歳。

(10歳にしては重いと馬が言いそうですが、誰が何と言おうと10歳。10サイのロボゴーグ閣下


初めての乗馬に、お転婆な江も苦戦。

何度も、振り落とされてしまいます。

それを饅頭片手に見物している初(水川あさみ)から、激が飛びます。

(初、キャラが定まったな)


と、お市が馬にまたがり、見本を見せてくれました。

そして、力を抜くようにアドバイスを。

何でも、その昔、兄・信長に教わったそう。


そこに、急ぎの文が届きました。

徳川家康(北大路欣也)からの物で、三の姫さまを御借りしたい、と書いてあります。

京にて織田さまの上洛を待つ、それに御付き合い願いたい、と。

また、江よりの文が心に染みた、とも書かれていました。

江は、築山殿と信康について、御悔みの文を送っていたのです。


市の許しを得て、江は京に向かうことに。

伯父上に会えるとあって、俄然張り切ります。

乗馬の稽古にも熱が入りますが、危うく初の上にダイブするところでした。


顔は泥だらけでも、伯父上に会えると思うと、うれしくてたまらない、江。



近江安土城。

信長は明智光秀(市村正親)に、京を経て秀吉(岸谷五朗)の加勢に行くと伝えます。

と、そこで、光秀が気になることがあると。

秀吉は中国、柴田勝家(大地康雄)は北国、今の状態だと、京の周りは空白になっている。

この隙をついて信長を狙うものが現れれば…。

光秀は、謀反を心配しているのです。


が、信長は澄ましたもの。

嫡男の信忠は、堺にいる。ということは、京と堺、同時に攻めなければ、謀反は成立しない。仮に信長を討つことができても、その後継に信忠が座るだけです。後は家臣が集結し、謀反者を討つだけ。


なるほど、と光秀。

「織田家は安泰ということでござりまするな」


何を思ったか、信長は光秀に、領地を召し上げると通告します。

突然のことに、光秀の顔は蒼白に。

丹波一国と近江の領地は召し上げ、代わりに、中国の石見と出雲をくれてやると。


といっても、石見も出雲も、毛利の領地。

そう反論する光秀に、信長は、「奪い取ればよいではないか!」と、一喝しました。

そして、「戻る場所はない故、死ぬ気で戦え」と、申し付けます。


頭の中が真っ白になる、光秀。

扇子が手から落ちます。

見ると、また右手が震えている。

この震えは、何を意味するものか?

何が、内側から出ようとしているのか?


「そうじゃ」と、思い出したかのように言う、信長。

「わしを襲うことのできる者が、ひとりだけおったわ」、そう言って、光秀の前に座りました。

「誰よりも都の近くにおる者、光秀、御主じゃ」

そして、顔を近づけ、囁きます。

「どうじゃ、謀反でも起こしてみるか?」


光秀は身を固くし、空を見ながら、「滅相もないことにござります」と。


一礼して下がる光秀を、信長はじっと睨みつけていました。



5月21日、江は乳母のヨシ(宮地雅子)らと共に、京へ。

茶々(宮沢りえ)は御守りにと、櫛を持たせてくれました。

初は逆に、京土産に櫛を買って来いと要求。

この時初めて、江は殺意を抱きました。饅頭を喉に詰めてやろうか、饅頭に毒を入れてやろうか、様々な饅頭殺人の案が浮かんだといいます。饅頭だけに、アンが入っている――スミマセン、スミマセン、生まれてきてゴメンナサイ



5月22日、光秀は、宗易(石坂浩二)を訪ねました。

そこで、信長に宣告された仕打ちを、打ち明けます。

右手の震えが収まらない光秀は、満足に茶碗を持つこともできない。


「御自分を追い込みすぎなのと、ちゃいますか」と、宗易は言います。「もうちょっと、ゆるりとな」

そして、「そや、天下でも取ってみせたるくらいの気構えになったらよろし」と、笑いました。


が、余裕のない光秀は、この言葉に過剰に反応。

「天下取りなど、とんでもないこと!」と、ものすごい形相で返しました。


宗易から、心持のことだと言われ、やっと我に返ります。


いろいろなものを抑える、光秀。

主君への怒りも、渦巻く感情も、頭で抑え込もうとします。

口に出すこともせず、考えることさえ、己で禁忌とする。

が、追い込まれれば追い込まれるほど、内から溢れ出るものが。

そして、右手の震えが止まらない。



珍しく、森蘭丸(瀬戸康史)が信長に、畏れながらも、訊ねました。

「おやかた様は何故、ああまでつらく当たられるのかと…」


本に目を落としていた信長は、「つらく当たる――のう」と、ぽつり。

そして、こう言いました。

「光秀は長い流浪の末、足利義昭に、次いでわしに仕えてきた。そのためか、人に容易に打ち解けず、目には見えぬ殻を纏うておる。それが人物を小そう、窮屈にさせておるのじゃ」

「それに気づき、自らが脱ぎ捨てねばならん」

「わしに万一のことあらば、後を託せるのは、明智光秀、ただひとりなのだからな」



!!

すべてを理解した、蘭丸。

「御心の内、やっと分かりましてございます」と、頭を垂れました。

が、気になることも。

「ただ、その御気持ち、明智さまに届くものかと…」



信長は、小さく笑いました。

「それは、あの者の器量次第よ」



そんなことは知らず、考える余裕も無い、光秀。

所領召し上げという仕打ちと、主君には従わねばならないという強い頭の指令。

道義的に正しい頭と、反応として正しく自然な心と身体が、せめぎ合います。


脳裏をよぎる、信長の言葉。

どうじゃ、謀反でも起こしてみるか?


打ち消そうとする指令とは別の物を、光秀は己が中に感じはじめていました。



5月24日、江は家康の屋敷へ。

が、少々、予定が変更されていました。

どうやら、信長の到着が遅れるらしい。

なので、一度堺で骨休みすると。


伯父上とは後で会えるわけだし、堺では、宗易さまとも会える。

江は気持ちを切り替えました。



5月28日、中国攻めの段取りが整ったと報告を受ける、光秀。

中国攻め、光秀は秀吉の配下につかねばなりません。

そして、領地は召し上げ、戻る場所もない。


尽くしても尽くしても、いや、尽くせば尽くすほど、ひどい仕打ちを受ける。

正直であればあるほど、正しくあればあるほど、虐げられる。

そして止まらぬ、右腕の震え。

右腕までも、コントロールできない。


コントロール…


光秀の家臣・斎藤利三(神尾佑)は、肩に乗っかった人形から――ではなくて 部下より、織田信忠が堺行きを取りやめ京に留まるとの報告を受けます。

斉藤からそれを聞かされ、光秀の心臓は、ひとつ、強く、脈打ちました。

信忠が京に残れば、謀反が成立する下地が…。


光秀は、信長の護衛の数を、斉藤に訊ねました。

そして、信忠の手勢も。


数字的にも、謀反は可能な状態。

奇しくも、場は整った。


光秀は言いました。

「利三、わしは今、途方もないことを考えておる」


謀反、

謀反、

謀反、


自然と、光秀の口元に、笑みが。


そして、斉藤より、右腕の震えが止まっていることを指摘されます。



流れはできた。

噴出するものの、行き先が、決まった…





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6月1日、未の刻。

信長は本能寺にて、茶会を開いていました。

公家や寺家が集まり、信長がわざわざ運搬した名物38種を目にし、溜息をついています。


「欲しくば、毛利を倒した暁に、くれてつかわそう」と、信長。

「名物といえども、ただの茶碗よ。ありがたがるほどの物でもない」


その言葉に、場は静まり返ります。

天下人の前では、由緒ある茶道具も、ただの茶碗か。


そんな信長ですが、楽しみにすることも。

家康と共に、江がやって来る。

今度は何と言うてくるか、信長も読めません。

また、それ故に、楽しい。



その江は、宗易の前に。

伯父上に詫びを言うために来たのだと、話します。

「伯父上は、憎まれ、怖れられる者は、ひとりでよいと言われたそうです。泰平の世をもたらす、それだけが望みなのだと」

「それも知らず、伯父上に好き勝手を申しました」



そんな江に、宗易は言います。

「お江さまは、“切所”(せっしょ)という言葉を御存知やろか?」

「事が成るか成らんか、ぎりぎりの分かれ目のことですわ」

「織田さまは今、その切所におられるんや」



天下を治めるか、治められないかという、切所。


「無事にここを乗り越えられたら、ええんやが」と、宗易。


茶を出された江は、「伯父上は、きっと乗り越えられます」と。

きっと、と笑いました。


今、江が手にしている茶碗は、信長の御気に入りなのだという。

伯父上の、御好きな御茶碗。

江は、まじまじと茶碗を見つめます。



6月1日、酉の刻。

伊勢・上野城に、不吉な音が響きました。

見ると、天下布武の印が割れている。

市はその予感を、心の奥に仕舞います。

そんなことは、起こるはずがない。



6月1日、亥の刻。

丹波、老ノ坂。

二股の道を前に、光秀は馬の足を止めました。

家臣たちが見つめる中で、光秀は宣言する。

「みなの者、これより東に向かい、桂川を渡る!」


西ではなく東に向かうと聞き、戸惑う家臣たち。


「目指すは、本能寺なり!」

「明智日向守光秀、天に代わりて、織田信長を成敗いたす!」

「天下布武の美名のもと、罪もなき民草を殺戮し、神仏を虐げしのみならず、不埒にも自らを神に祀り上げ、あまつさえ帝をも己の下に置かんとする所業の数々、許し難し!」

「よって、これを誅伐するこそ、天の義、人の道に適うものなり!」

「敵は、本能寺にあり!」




決断は下されました。

6月2日、子の刻。

桂川を、光秀の軍が渡ります。


考えることさえ拒んでいた河を、光秀は今、渡った。


己に言い聞かせるように、光秀は言いました。

「迷うな、光秀、迷うな!」



6月2日、寅の刻。

信長は、不穏な気配に気づきました。


蘭丸に様子を窺わせますが、すぐに戻ってくる。

「殿、兵が押し寄せておりまする」

如何なる者の企てか? と訊くと、明智勢だという。


坊丸(染谷将太)、力丸(阪本奨悟)も、駆けつけました。

敵勢は、数千~1万、既に本能寺を取り囲んでいるという。

信長の警護は、百にも満たない。


圧倒的不利な状況の中、信長は、「是非に及ばず」と。

「今更騒いだところで、どうにもならん」、そう言って笑いました。


「そうか光秀」と、信長。

「御主も天下が欲しかったか…」


信長は弓を持ち、表へ。



備中、高松。

秀吉は、空の異変を気にしていました。

空が、やけに赤い。

まるで、血のような色をしている。



本能寺では、塀の上から銃による攻撃が。

信長の前で、家臣が倒れます。


「みなみな、己のことのみ考えよ」、そう指示を出す、信長。

怒号と共に、光秀の兵が攻め込んできます。

信長は矢で、応戦。

慌てることなく、静かに、弓を引く。



胸騒ぎに目を覚ましたお市は、割れた天下布武の印を手に取ります。

まさか、まさか…



矢を射る、信長。

次々と、兵を倒してゆく。


そんな中、信長は力丸に、女と小者を逃がすように命じました。

そして、また、弓を引く。


と、その時、肩口に弾が命中。

信長は弓から槍に持ち替え、敵兵の前へ。

一突き、また一突きと、倒してゆく。



宗易は、ふと気になって、ある茶碗を手にします。

見ると、ひびが。

信長お気に入りの茶碗に、不吉な裂け目が入っていました。



家臣と共に応戦する、信長。

しかし、大軍を前に、なす術がありません。

ひっくり返しようがない。


信長は坊丸に、境内悉くに火を放つよう、言い渡しました。

そして蘭丸を呼び、奥へ。


寺には既に火が回りはじめている。

信長は最後の命令を、蘭丸に伝えます。

「よいか、わしの首、骨、髪の1本も、この世に残すな」


それを、蘭丸が、しかと受け取る。

「承りましてございます」


「おやかた様、無念にございます」
と、蘭丸。

そして、脇差を信長に渡しました。


「これまで、よう仕えてくれた」

信長の言葉を、蘭丸は涙ながらに受け取る。


「さらばじゃ」

信長の顔には、わずかな笑みが。


迫りくる敵兵を、蘭丸が食い止めます。

「ここから先は、1人たりとも通すな!」

わずかながらの味方と共に、敵に向かう。



何とか奥の間に辿り着く、信長。

その前に、江が。

いや、これは、幻か。


江はまっすぐに信長を見つめている。

わずかながら、光っているように見える。


「そうか、別れを言いに来てくれたか」と、信長。

「江よ、わしは思うまま、存分に生きたぞ」と、胸を張ります。


江は満足気に笑うと、行ってしまった。


「人間、五十年――潮時かもしれんな」

信長は、次の間へ。

ひとつを終え、次へ…





証言 本能寺の変―史料で読む戦国史



本能寺の変 四二七年目の真実





はっと、目を覚ます、江。

ヨシに着替えを持たせ、家康のもとへ。


伯父上の夢を見たのですと、江は家康に話しました。

「何か、よくないことが起こったのかもしれません」

悲痛な顔で、そう訴える。


と、酒井忠次(桜木健一)により、報せがもたらされました。

母さん、辞令だ! 刑事になったよ!

「京、本能寺において、異変が起きた模様」


さらに、本多忠勝(苅谷俊介)が、続報を。

「本能寺の異変は、明智光秀殿の謀反との知らせにて」


本能寺、

謀反、

明智光秀…


江には、とても信じられない。


が、明智勢は嫡男・信忠をも襲い、洛中の織田勢は悉く討ち取られたと。


「京です、京へ行き、伯父上の安否を確かめるのです!」

そう訴える江ですが、それでは敵の手の内に飛び込むようなもの。

そして、江らがいる堺も、既に危ないかもしれない。



まだ燃えている本能寺で、光秀は信長の首を探していました。

「信長の首を晒せば、天下は変わる!」

「この光秀の物となるのじゃ!」




家康は、堺を出ることを決めました。

伊賀を抜けて伊勢に出る。伊勢まで行けば、味方も得られる。


信長の無事を信じ、京へ向かうと言って聞かない、江。

「姫さま、織田さまが生きておいでだと思うなら、再び御会いになりたいならば、今は逃げるしかないのです」

家康は、そう諭します。


そして、ヨシをはじめとする乳母たちは、同行を辞退しました。

「我らがいては、足手まといになるばかり。姫さまを、御願い申し上げます」

江を、家康に託しました。

「敵方も、よもや女子までは手にかけますまい」、そう笑って、江を送る。



本能寺の焼け跡から、信長の遺体は見つからない。

苛立つ、光秀。

「何故じゃ、何故、首が見つからぬ!」

「探せ、探すのじゃ!」

「何としても、信長の首を見つけ出すのじゃ!」




伊勢へと向かう、家康一行。

織田家に恨みを持つ者が跋扈(ばっこ)する、危険地帯に入ります。


信長を心配する江を、家康は励ましました。

「信長公は、稀に見る天運の持ち主。必ずや窮地を脱し、御無事でおわしましょう」


家臣たちが、馬を用意しました。

馬に乗り、脱出を図るのです。

が、江は乗馬の稽古をはじめたばかり。

ついて行くのに難儀します。


その矢先、野武士に囲まれてしまいました。

家康たちから離れていた江は、完全に孤立。

絶体絶命の状態に。

馬上で身動きがとれない。


と、その時、懐かしい声が聞こえました。

「生きよ、江」

その声は、伯父上?


振り返るとそこに、信長の姿が。

あの自信に満ちた目で、見つめている。


江は信長に促され、手綱を握りました。

できる、と確信します。


馬は嘶き(いななき)と共に野党の群れを割り、駆け出した。

力強く土を蹴り、進む。


家康は忠勝(通称:平八郎)に命じ、銭を投げさせました。

野盗が拾っているうちに、逃げる。



江はその背に、信長の存在を感じました。

振り返ると、確かにいる。


信長は言う。

「前に進め、そちは生きよ」

口元には、やさしい笑みが。

「そちは生きよ」



そちは、生きよ。

その言葉を、江は噛みしめます。

そして、悟った。


追いついた家康に、江は言いました。

「伯父上は、亡くなりました」

涙がこぼれてくる。

でも、止まるわけにはいかない。

「今は、前へ!」

「前に進むのみにございます」



そう約束したのだ。

伯父上と。


泣きながら江は、馬を駆りました。




天正10年、6月2日、

信長は躯(むくろ)を晒すことなく、この世から姿を消しました…





国盗り物語〈第3巻〉織田信長〈前編〉 (新潮文庫)



考証 織田信長事典





<感想>


真面目であればあるほど、正しくあろうとします。

正しいことを言い、正しい行動をとろうとする。

が、それも過ぎると、正しくないことを思うことまで、否定しようとする。


思うままに生きると誰かを傷つけるので、人はどこかで、我慢します。

欲求や衝動を抑え、己を制御する。

人間は、この制御する機能を有しています。

なので、社会が成り立つ。


我慢し、制御するのは、頭。

でも、人間は頭だけの生き物ではありません。

人間には、心も体もある。

司令塔たる頭は、心と身体を生かさねばならず、心と身体と共に生きるのが宿命。

そして頭も、心と身体に生かされている。


頭には頭の理屈があり、心や身体には、そちらの自然がある。

何かあれば、反応します。

つらいことがあれば つらいと思い、悲しいことがあれば悲しみ、怒ることがあれば怒る。

自然な反応をします。


なので、一方的に自然な反応を抑えられると…

本来反応すべきところを、遮られると…



光秀のことを買っていた、信長。

それ故か、光秀の不自然が気に入らない。

自由に、思ったままに生きる信長にとって、それは己を偽るかのように映っていたのかもしれません。

また、上に立つ者として、殻を破る必要性を伝えたかった。

己の殻を破り、腹の中を出せるようになれば、この男はさらに大きくなると、信じていた。



が、事態は、思わぬ方向へ。


一つひとつは自然な反応。

些細なものだったかもしれない。

が、それをため込んだので、大きなエネルギーを持つことに。

行き先を得られなかった力は、混沌とし、どす黒くなってしまった。


そして期せずして得た、方向性、穴。

力は、その一点をめざし、噴出してしまいます。



多少不細工でも、出しておけばよかった。

爆発でもいいので、出していたら。


それを拒んだ正しく真面目な光秀は…



歴史にもしもはないけれど、

(それ以前に、ドラマだけど)

思うことを拒否してなかったら、

言葉にすることを拒否してなかったら、

感情を出す場があったら、

行動するにしても、取り返しがつく範囲だったら…





出す、出さないの、問題ではありません。

出すことと出さないことには、双方、善悪が含まれる。

そして、どちらでもないことも、多い。


問題は、出し方。

程度。

それを練習する、そんな場さえ、あったら…





「普通がいい」という病~「自分を取りもどす」10講 (講談社現代新書)



9つの性格 エニアグラムで見つかる「本当の自分」と最良の人間関係 (PHP文庫)





すみません。

来週からは、江のレビューはしません。


ただ、書くことが湧いてきたら、また、やります。

(ということは、来週、ひょっこり書いているかもしれない)

中途半端になって、申し訳ない。





<<「第4話 本能寺へ」





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Author:南方 城太郎
生息地:関西
分類:昭和人間
生まれ:
黒電話、赤電話が主流で、冷房は扇風機、暖房は石油ストーブと炬燵という時代


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